生化学:酵素の協同性における低障壁水素結合の働き
Nature 573, 7775 doi: 10.1038/s41586-019-1581-9
多くのタンパク質で、協同性とアロステリック調節の基盤となる分子機構は詳しく解明されており、ヘモグロビンとアスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼはその典型的な例である。通常はエフェクターの結合がタンパク質の構造変化を引き起こし、それがシグナル伝達経路を介して離れた部位へと伝わる。こうした構造変化には三次構造、時には四次構造レベルにまでおよぶ顕著なものが含まれる。しかし、このようなシグナルの起源や長距離にわたるシグナル伝達の原子レベルでの分子機構はいまだに明らかになっていない。シグナル伝達経路の空間的スケールおよび時間的スケールが多様であることが、実験観察を難しいものにしていて、特に可動性プロトンの位置と動きは、構造解析に現在使われているような手法では可視化できない。今回我々は、揺動する低障壁水素結合が、多量体酵素の協同性に至る経路で切り換え要素として働くことを実験で観察したことを報告する。このような低障壁水素結合は、2つの多量体酵素の超高分解能X線結晶構造解析で得られた構造中で観察され、この帰属は計算機を使った計算によって確認された。活性部位における触媒反応が、酸性側鎖と水分子から構成される回路中で低障壁水素結合と通常の水素結合との切り換えを起こし、ニュートンのゆりかごの原子レベル版のような挙動によってプロトンが一斉に配置替えされ、それを介してシグナルが伝達される。こうして生じた情報伝達によって、オリゴマーの触媒作用が同調する。今回の研究により、低障壁水素結合がタンパク質中に存在することだけでなく、酵素で見られる協同性とのそのつながりについても、複数の証拠とワーキングモデルが得られた。この知見は、生体分子中に一連のアミノ酸残基を目的に合わせて配置して長距離にわたる情報伝達を可能にし、これによって改変した生体分子の調節を行うという、薬剤や酵素の設計のための新規な考え方を示唆している。

