がん:α-ケトグルタル酸は腫瘍抑制の際にp53と細胞運命を結び付ける
Nature 573, 7775 doi: 10.1038/s41586-019-1577-5
腫瘍抑制因子TP53の変異は、ヒトがんの大多数に見られ、膵管腺がん(PDAC)では70%以上に達する。野生型p53は、細胞ストレスに応答して蓄積し、遺伝子発現を調節して細胞運命を変化させ、腫瘍の発生を防ぐ。野生型p53はまた、細胞の代謝経路を調節することが知られているが、がんのプログレッションを抑制するp53依存的代謝変化についてはほとんど分かっていない。今回我々は、p53ががん細胞の代謝を再構築して、前悪性状態の細胞運命に有利なクロマチンの変化や遺伝子発現の変化を強制的に起こすことを示す。KRAS変異型のPDACマウスモデルに由来するがん細胞においてp53機能を回復させると、α-ケトグルタル酸(αKG;別名2-オキソグルタル酸)の蓄積が引き起こされた。αKGはクロマチン修飾酵素の一部に対して必須の基質としても働く代謝物である。p53は前悪性状態の分化に特徴的な転写プログラムを誘導し、この効果は細胞透過性のαKGの添加により部分的に再現できた。αKG依存性のクロマチン修飾である5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC)のレベル上昇は、p53によって引き起こされる腫瘍細胞分化と同時に起きていたが、一方5hmCのレベル低下は、前悪性状態から、Trp53の変異に関連する脱分化した悪性病変への移行を特徴付ける。p53欠損PDAC細胞において、トリカルボン酸回路の酵素であるオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼの阻害によりαKGを強制的に蓄積させると、5hmCのレベル上昇、腫瘍細胞の分化、腫瘍細胞の適応度の低下が特異的に引き起こされた。逆に、コハク酸(αKG依存性ジオキシゲナーゼの競合的阻害因子)の細胞内レベルを上昇させると、p53による腫瘍抑制が鈍化した。これらのデータは、αKGがp53を介した腫瘍抑制のエフェクターであり、p53欠損腫瘍におけるαKGの蓄積が腫瘍細胞の分化を促進して、悪性プログレッションに拮抗できることを示唆している。

