惑星科学:エクソマーズのトレース・ガス・オービターによって観測された、火星砂嵐の大気中H2OとD/Hへの影響
Nature 568, 7753 doi: 10.1038/s41586-019-1097-3
火星では、全球に及ぶ砂嵐はめったに起きないが、一度起きると数か月にわたって大気に影響を与えることがある。砂嵐は、主に太陽による塵の加熱に起因する大気ダイナミクスの変化や大気の膨張を引き起こす場合がある。大気ダイナミクスの変化は、大気中の水蒸気の分布に影響を及ぼすことがあり、その結果、火星の大気光化学や気候が影響を受ける可能性もある。砂嵐の条件における火星大気の水蒸気量に関する最新の観測結果からは、大気の水蒸気が高高度で増加し、北半球高緯度域でより著しいこと、また、低緯度域で水柱が減少することが示された。本論文では、「エクソマーズ」ミッションのトレース・ガス・オービターに搭載された観測装置NOMADとACSによって得られた、全球規模の砂嵐開始時の塵、水(H2O)、半重水(HDO)の高分解能同時測定結果を示す。我々は、惑星境界層から高度80 kmまでのHDO/H2O比(H/D)の鉛直分布を報告する。今回の知見は、砂嵐開始前に、40 km以上の高度でHDO量が検出限界以下のレベルまで低下したことを示唆している。このHDOの減少は、水氷雲の存在と一致する。砂嵐の期間に、40〜80 kmの高度でH2OとHDOの存在量が増加したことが観測された。我々は、こうした存在量の増加は、砂嵐時の温度上昇によってより強い大気循環が生じ、氷雲の形成が妨げられる結果である可能性があると考える。これにより、水蒸気は氷晶の重力による落下とその後の昇華によって低高度に閉じ込められる可能性がある。今回観測されたH2OとHDOの存在量の変化は、砂嵐の発達中の数日内で生じており、砂嵐が火星大気に速やかな影響を与えていることを示唆している。

