神経科学:海馬の場所細胞における経路積分の再較正
Nature 566, 7745 doi: 10.1038/s41586-019-0939-3
海馬の場所細胞は、空間的に同調したニューロンで、哺乳類脳内の「認知地図」の要素として機能する。動物が自身の現在位置を検知する際、場所細胞は、既知の目標物と自身との相対的位置を感知する機構と、自身がその前に占めていた位置からそこまで移動した距離と方向を測る機構の、2つの相互に関連した機構を使うと考えられている。後者の機構は経路積分と呼ばれており、動物自身の移動を内在的認知地図上の位置の更新に結び付ける微調整されたゲイン係数と、累積する位置誤差を修正するための外在的目標物とを必要とする。経路積分に基礎をおく海馬場所細胞や嗅内皮質のグリッド細胞のモデルでは、経路積分のゲインを定数として扱っているが、ヒトの行動の証拠からは、このゲインは変動することが示唆されている。今回我々は、ラットの海馬場所細胞の生理学的証拠から、経路積分のゲインは高度に可塑的な変数であり、自己運動の手掛かりと外部目標物からのフィードバックの間で常に生じる食い違いによって変化し得ることを示す。拡張現実(AR)システムを使い、円形の走路上のラットの運動に比例して視覚的目標物を移動させ、経路積分と常に食い違うようにした。この手掛かりの食い違いへの持続的な曝露によって、経路積分のゲインに予測可能な長期的再較正が起き、これは、目標物を消した後の場所細胞から見積もられた通りであった。この迅速な可塑性は、ラットが行動している時間中ずっと、外界におけるラットの運動に合わせて位置の更新を続けていると考えられる。これらの結果は、視覚的目標物は、経路積分システムの累積誤差を修正する信号を提供しているだけでなく、積分計算自体を素早く微調整していることも示している。

