分子生物学:ADNPはHP1とCHD4を動員して細胞系譜指定に関わる遺伝子を制御する
Nature 557, 7707 doi: 10.1038/s41586-018-0153-8
ADNP(activity-dependent neuroprotective protein)をコードするADNP遺伝子のde novo変異が、Helsmoortel–Van der Aa症候群の原因になることが最近判明した。この疾患は複合的な神経発達障害で、他の複数の臓器機能にも影響が出る。ADNPは胚の発生に不可欠な転写因子だと考えられている。しかし、転写調節や発生におけるADNPの詳細な役割は解明されていない。今回我々は、ADNPがクロマチンリモデリング因子であるCHD4とクロマチン構造タンパク質であるHP1と相互作用して安定な複合体を形成することを明らかにし、この複合体をChAHPと名付けた。ADNPは複合体の形成を仲介するだけでなく、ChAHPのユークロマチンへの結合を規定するDNAモチーフを認識する。マウスの胚性幹細胞でChAHPの構成要素を遺伝学的に除去すると、細胞系譜特異的な遺伝子の尚早な活性化と同時に自発的な分化が起こり、うまく神経細胞系譜へ分化できなくなる。分子的には、ChAHPを介した抑制はHP1を介したカノニカルな遺伝子サイレンシングとは根本的に異なる。HP1タンパク質は、ヒストンH3リシン9のトリメチル化(H3K9me3)と結び付いて、転写されにくい広範なヘテロクロマチン領域を組み立てると考えられている。これに対し、ChAHPを介した抑制では、DNAの結合部位周辺に接近できないクロマチンを形成することによって局所的に抑制が起こり、これはH3K9me3修飾ヌクレオソームに依存しない。これらの結果を総合すると、ADNPはHP1とCHD4の動員を介して、細胞の特定の状態を維持するのに不可欠な遺伝子の発現を調節し、外部からの合図に応じて正しい細胞の運命決定を確実に行えるように働くことが分かった。ADNPの変異が複数の臓器や体の機能に影響を及ぼし、がんのプログレッションに関わるのは、このようにChAHPが細胞運命の可塑性制御全般に役割を果たしていることで説明できるかもしれない。興味深いことに、Helsmoortel–Van der Aa症候群の患者から見つかったナンセンス変異によって、ChAHP複合体の完全性が損なわれるが、この異常が翻訳終結を抑制するアミノグリコシドによって救済できることが分かった。従って、現在開発中の、リボソームの早期終結コドン読み飛ばしを促す治療薬は、Helsmoortel–Van der Aa症候群患者に有効かもしれない。

