気候科学:氷山のキールによる溝跡から得られたパイン島湾における海氷崖不安定性の証拠
Nature 550, 7677 doi: 10.1038/nature24458
海面下800 mより深い接地線を支える棚氷が失われれば、海氷崖不安定性(MICI)過程によって、南極氷床の将来の後退が加速する可能性がある。西南極のパイン島とスウェイツ氷河の現在の接地域は、少しの距離後退しただけで逆向きの広大な斜面に達する。理論的考察とモデリングの結果は、氷河の接地域がそうした斜面の上へ後退すると、後退は不安定になり(海洋氷床不安定性)、そのため加速すると示唆している。この後退によって水面から約90 mの高さに達する氷崖ができると、MICIが生じると考えられている。しかし、MICIの作用を裏付ける観測的証拠は、これまで報告されていない。今回我々は、最近のモデリング研究でシミュレートされた氷床の後退と同様の様式で、パイン島湾への急速な退氷期の氷床の後退がMICIに駆動されて進行したことを示す観測的証拠を提示する。氷山のキールによってついた海底の溝跡から、過去と現在の氷山の形態、キールの深さ、漂流方向の地質学的証拠が得られる。我々は、氷山のキールによる溝跡の平面形状と断面形態から、最近の退氷期における氷山の分離は、現在見られるような少数の大きな平板状の氷山(広く底が平らな溝跡か、くし状の複数のキールによる溝跡を生み出すと思われる)を特徴としなかったことを見いだした。そうではなく、退氷期の氷山分離は、多数のV字型の小さな氷山を特徴としていた。溝跡の形と深さの分布という地質学的証拠は、分離する縁の厚さが、MICIの結果として氷崖の構造崩壊を引き起こすと予測されるしきい値に相当することを示している。我々は、MICIに駆動される急速で持続的な氷床の後退は、約1万2300年前に始まって約1万1200年前に終結し、現在生み出されている典型的な平板状の氷山よりも小さな氷山を多数生み出したと推測する。今回の知見は、MICIの作用が過去に有効だったことを示しており、将来の南極氷床の後退の加速に寄与する可能性があることを明らかにしている。

