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細胞生物学:Sasリガンドとその受容体PTP10Dはがん抑制性細胞競合を促す
Nature 542, 7640 doi: 10.1038/nature21033
正常な上皮細胞は、近隣の発がん性細胞に対してしばしば抗腫瘍効果を発揮する。ショウジョウバエ(Drosophila)の成虫原基の上皮では、頂底極性遺伝子のscribbleあるいはdiscs largeの機能喪失変異を持つ発がん性細胞のクローンが野生型細胞に囲まれている場合、細胞競合により積極的に排除される。この細胞排除にはJNK(c-Jun N-terminal kinase)シグナル伝達が極めて重要な役割を担っているが、正常細胞と極性を失った細胞の間の境界面で起こる初期の現象については、まだ明らかにされていない。本研究で我々は、ショウジョウバエにおける遺伝学的スクリーニングにより、Sasリガンドとその受容体である受容体型チロシンホスファターゼPTP10Dが、がん抑制性細胞競合を促す細胞表面のリガンド–受容体系であることを明らかにする。野生型の「勝者」細胞と極性を喪失した「敗者」細胞の間の境界面では、勝者細胞はSasを細胞側方表面へ局在させ、敗者細胞はPTP10Dを同じ場所へ局在させる。その結果、敗者細胞でSas–PTP10Dシグナル伝達のトランス活性化が引き起こされ、これによりEGFRシグナル伝達が抑制されて、敗者細胞で上昇したJNKシグナル伝達による細胞排除が可能になる。Sas–PTP10Dがないと、敗者細胞で上昇したEGFRシグナル伝達は、Hippo経路を不活性化することでJNKの役割をアポトーシス促進性から増殖促進性へと切り替え、極性喪失細胞の過剰増殖を促進する。これらの知見から、正常な上皮細胞が極性を喪失した発がん性の近隣細胞を認識し、細胞競合を促進する機構が明らかになった。

