化学:速度論的にE-選択的な大環状閉環メタセシス
Nature 541, 7637 doi: 10.1038/nature20800
大環状化合物は新薬開発の中核であるが、アルケン(オレフィンとも呼ばれる)などの非環状前駆体の両端部を引き合わせて縮合させるためにはエネルギー障壁を乗り越える必要があるため、そうした化合物の合成は難しい場合がある。この目的のために、閉環メタセシス(RCM)と呼ばれる触媒過程によって、生物活性を有する無数の大環状有機分子が得られるようになっており、大規模生産も可能になっている。そうした合成においては、立体選択性が基本的に重要になることが多く、例えば、大環状化合物の有効性がその前駆体であるアルケンの立体化学に依存する可能性がある。あるいは、大環状化合物の異性体の1つが、立体選択的に修飾(ジヒドロキシル化など)されることもある。速度論的に制御されたZ-選択的RCM反応はすでに報告されている。しかし、大環状E-オレフィンが得られる唯一のメタセシス法では、エテノリシスによって立体異性体混合物からZ異性体を選択的に除去する必要があり、E/Z比が1に近い場合かなりの量の物質が犠牲になる。また、エチレンの使用によって偶発的なオレフィン異性化が起こることもあり、こうした異性化は、E-アルケンの方がエネルギー的に不利な場合に特に重大な問題となる。今回我々は、触媒的クロスカップリングに広く用いられているE-アルケニル–B(ピナコラート)基を持つジエンが、大環状E-アルケンへの立体選択的変換に必要な電子的特性や立体的特性を有することを示す。この反応はモリブデンモノアリールオキシドピロリド錯体によって促進され、最高73%の収率と98/2を超えるE/Z比で生成物が得られる。我々は、Z異性体がE異性体よりも有効性が劣る、12員環抗生物質のレシフェイオリドと18員環酵素阻害剤のパクリチニブを合成することによって、この手法の有用性を明らかにした。注目すべきことは、リンパ腫や骨髄線維症の治療用として臨床試験が進んでいる有効な抗がん剤パクリチニブの18員環部分が、ルテニウムカルベンを用いたときの20倍の基質濃度でRCMを行うことによって合成されたことである。

