Letter
有機化学:鉄触媒を用いた医薬化合物のトリチウム化
Nature 529, 7585 doi: 10.1038/nature16464
動物モデルにおける薬物動態特性と薬力学特性を十分理解することは、創薬や医薬品開発の重要な要素である。そうした研究は、薬物分子の代謝プロファイルの解明や毒性評価のために、臨床前の吸収・分布・代謝・排泄(ADME)研究からヒトでの後期臨床試験まで、開発過程の各段階においてin vivoやin vitroで行われる。放射性標識化合物、一般的には14Cや3H同位体を含む放射性標識化合物は、こうした研究向けに広く用いられている最も強力な診断手段の1つである。合成化学を用いて放射性標識を導入することで、薬物分子の構造や機能を実質的に変えずに薬物分子を直接追跡できるようになる。C–H結合は薬物分子内の至る所に存在し、トリチウム(3H)は、比較的扱いやすく安価であることから、医薬品開発過程の初期にADME研究を行うには理想的な放射性同位体である。今回我々は、放射性同位体源としてトリチウムガスを用いた水素同位体交換によって医薬化合物を直接3Hで標識する、鉄触媒法を報告する。鉄触媒のサイト選択性は、現在使用されているイリジウム触媒に対してオルソゴナルであり、薬物分子内の補完的な位置への同位体標識が可能になるため、医薬品開発分野に新しい診断ツールがもたらされる。

