がん:MTH1を(S)-クリゾチニブの立体構造特異的標的とする抗がん治療戦略
Nature 508, 7495 doi: 10.1038/nature13194
RAS GTPアーゼシグナル伝達の活性化は、発がん性形質転換と悪性疾患を推し進める重要な要因である。RAS依存性のがんの細胞モデルを使って、SCH51344のような実験用小型分子が見つかっているが、その分子レベルでの作用機構は一般に解明されないままとなっている。今回我々は、化学的プロテオミクスの手法を用いて、SCH51344の標的がヒトmutTのホモログであるMTH1(別名NUDT1)という損傷ヌクレオチド除去酵素であることを明らかにした。MTH1の機能を喪失させるとKRAS依存性腫瘍細胞の増殖が阻害されるが、MTH1の過剰発現はSCH51344に対する感受性を低減する。これよりさらにドラッグライクな阻害剤を探索し、キナーゼ阻害剤であるクリゾチニブがMTH1活性をナノモルレベルで抑制することが分かった。臨床で用いられているクリゾチニブの(R)-エナンチオマーは意外にも不活性だったが、(S)-エナンチオマーはMTH1の触媒活性を選択的に阻害した。酵素活性解析、化学的プロテオミクスによるプロファイリング、キノーム規模の活性評価、MTH1の両方のエナンチオマーの共結晶構造から、この注目すべき立体特異性の根拠が明らかになった。(S)-クリゾチニブによるMTH1の阻害を介してヌクレオチドプールの恒常性を破壊すると、ヒト大腸がん細胞ではDNA一本鎖切断が増加してDNA修復が活性化され、動物モデルでは腫瘍増殖が効果的に抑制された。これらの結果は、(S)-クリゾチニブがさらなる臨床前評価を行う価値のある有望な化合物であることを示しており、MTH1に作用する低分子阻害剤は一般に新種の抗がん剤として期待できることを示唆している。

