Letter
生物物理:単一分子の蛍光を使って障壁通過の動態を調べる
Nature 502, 7473 doi: 10.1038/nature12649
クラマースは、化学反応速度に媒質の粘度が及ぼす影響に関する理論を考案した。水の粘度では、単分子反応の速度論的性質は、反応物と生成物を隔てる自由エネルギー障壁を超えるブラウン粒子の拡散によって記述される。溶液中の反応に関しては、この有名なクラマース理論によってアイリングの遷移状態理論が拡張され、物理学、化学、生物学の分野では、タンパク質の折りたたみのような複雑な反応を含めて、クラマース理論が幅広く適用されている。クラマース理論における拡散係数は、障壁頂上の希薄領域における動態によって決まるので、この計数の特性はいかなる分子系についても直接測定されたことがない。今回我々は、タンパク質の折りたたみに関する遷移経路時間の温度依存性と粘度依存性の測定によって、クラマース拡散係数と自由エネルギー障壁の特徴を調べられることを示す。2つの状態を隔てる自由エネルギー障壁を単一分子が実際に通過する場合、遷移経路は、単一分子の平衡軌跡の一部となる。通過の際の時間、つまり遷移経路時間は現在、折りたたまれてからその構造がほどけるという遷移を経る単一タンパク質分子についての光子軌跡から測定可能である。我々が得た長い遷移経路時間と異常に小さい溶媒粘度依存性という結果は、内部摩擦と溶媒摩擦の両方によって、αヘリックスタンパク質のクラマース拡散係数が決まることを示唆しており、これは多くの小分子反応で起こるクラマース理論の破綻とは対照的である。クラマース理論に関する今回得られた新しい基本情報と障壁通過の動態が、非常に単純な化学系や物理系ではなく、タンパク質に関する実験に由来することは、注目すべきである。

