Letter 気候:始新世初期における南極大陸の持続的熱帯様温暖化 2012年8月2日 Nature 488, 7409 doi: 10.1038/nature11300 過去6500万年間における最も温暖な地球気候は始新世初期(約5500万〜4800万年前)の間に起こり、当時は赤道と極の間の温度勾配が今日よりもずっと小さく、大気中の二酸化炭素濃度は単位体積当たり1,000 ppmを超えていた。人為起源の炭素排出が減らないと、近い将来大気中の二酸化炭素濃度は高くなると予測されているが、そのような状況に対する地球の気候と生物圏の応答について知見が得られる可能性があることから、近年、始新世初期は大いに興味が持たれている。しかし、始新世初期の「温室世界」の気候状態については、重要領域、こと南極においてほとんどわかっていない。本論文では、東南極のウィルクスランド沖で採取された海洋堆積物柱状試料から、よく年代決定された、南極における始新世初期の気候記録を提示する。生物的な気候の代理指標(花粉・胞子)ならびに、それとは独立した有機地球化学的な気候の代理指標(側鎖テトラエーテル脂質に基づく指数)の情報は、南極の始新世初期の温室世界における季節温度の定量的復元をもたらす。ウィルクスランド沿岸(古緯度で南緯約70度)の低地環境下の気候は、ヤシやパンヤ亜科を含む温帯から熱帯の植物相要素で特徴付けられる、きわめて多様で熱帯林に似た森林の生育に都合が良かった。とりわけ、冬は非常に温暖で(10℃より暖かく)、極域の常夜の存在にもかかわらず霜が降りず、このことは、気候モデルの検証や二酸化炭素の増大に対する高緯度の地球生態系の応答を理解する上で重要な新しい手がかりを与える。 Full Text PDF 目次へ戻る