Letter 細胞:多部位リン酸化系の無限の多重安定性 2009年7月9日 Nature 460, 7252 doi: 10.1038/nature08102 セリン、トレオニン、チロシンの可逆的リン酸化は、タンパク質の翻訳後修飾の中で最も広く研究されている。1個のタンパク質上にあるリン酸化部位の数(n)は原核生物では7か所以下だが、真核生物では著しく増えて150か所以上という例もみられる。多重部位のリン酸化には多くの役割があり、部位の保存は、部位数の増加が単に複数部位がリン酸化されただけではないことを示している。n個のリン酸化部位をもつ基質のリン酸化状態の数は指数関数(2n)で表され、個々のリン酸化型が異なった生物学的影響をもつ可能性がある。これらのリン酸化型の分布とそれを調節する機序は、まだ解明されていない。本論文では、多数のリン酸化部位をもつ1個の基質にキナーゼとホスファターゼが対立的に作用する際には、この系は、定常状態にある複数の安定なリン酸化型分布をとることができ、このような分布の最大数がnに伴って増加することを示す。安定な分布の中には1種類のリン酸化型に収束するものもあるが、もっと分散した形をとるものもあり、そのためにホスホプロテオームは、情報を暗号化してさまざまな状況に柔軟に対応できる流動性のある調節ネットワークとして振る舞うことが可能になる。このような可塑性は、真核細胞の複雑な情報処理の基盤になっている可能性があり、多数のリン酸化部位をもつ機能上の利点と考えられる。今回の結果は、定常状態リン酸型濃度の独特な分散形状から得られたもので、これがnに関係ない有理代数曲線となることがわかった。それによって、パラメーターを記号的に扱いながら、定常状態の計算の複雑さを、3 × 2nの微分方程式のシミュレーションから、2個の代数方程式を解くことにまで減らした。このような方法は、ヒストンコードのような複数の翻訳後修飾「暗号」にみられるような、複数の基質とさまざまな修飾を触媒する複数の酵素がかかわる系にも拡張できると予想される。分子の複雑さが急激に増大するにつれてシミュレーションは大変な問題になるのに対し、ここで開発したような数学的手法は、細胞の情報処理原理を明確に説明する新しい「言語」となる可能性がある。 Full Text PDF 目次へ戻る