Nature Outlook

薬剤耐性(AMR)

​既存薬の使用を減らすための努力と、研究投資目的のインセンティブは、抗菌薬耐性と闘う上で役立つ。

Sarah O’Meara

Sam Chivers

抗菌薬が適正に使用されないことで生じる医療への脅威が、私たちに迫ってきている。1945年に細菌学者のアレキサンダー・フレミングは、ペニシリンの発見でノーベル賞を受賞した後、抗菌薬の乱用が薬剤耐性菌の出現につながるかもしれないと述べた。

問題がこのまま放置されたままであれば、薬剤耐性菌が引き起こす疾患によって、がんよりも多くの人が死亡する可能性がある。このような警告がなされているにもかかわらず、また、研究者と政策立案者の間では薬剤耐性に対処するために行動を起こさなければならないという世界的なコンセンサスが得られているにもかかわらず、社会は薬剤耐性への対応に苦慮してきた。

一方、研究者たちは、薬剤耐性が生じるのを遅らせる方法を研究している。例えば、細菌に耐性を付与する遺伝子が、いつ、どのように細菌内で存続するようになるのかについての知見は、新たな治療戦略につながる可能性がある(S58参照)。細菌の防御機構に打ち勝つために、既存の抗菌物質のドラッグリポジショニングが模索されている(S55参照)。また、最終的により多くの抗菌薬を市場に出すことを目指して、抗菌薬開発の新しい手法が提唱されている(S57参照)。 しかし、新しい抗菌薬が欠如しているのは、生化学的な問題だけではない。経済学的にも大きな課題があるのだ。抗菌薬への投資は魅力的なものではない。開発には費用がかかるが、薬価は低く、新薬の使用量はそれほど多くない。製薬会社や政府は、これらの課題に対処して、抗菌薬研究を奨励するために、出資金ベースのモデルなど、さまざまな手法を模索している(S50参照)。

抗菌薬の使用を減らすためには、政府の介入も重要である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックでは当たり前になっているように、衛生状態をより良くするよう促進することが助けになる可能性がある(S53参照)。陸上での畜産業や、海洋での養殖漁業における抗菌薬の使用問題に取り組むための行動も必要である(S63参照)。中国では、畜産業での抗菌薬の使用量がかつては右肩上がりであったが、政府による規制によって大幅に減少した(S60参照)。ヨーロッパ諸国も家畜への抗菌薬の使用量の削減に成功している一方で、米国は、その量を削減できていない(S64参照)。

原文:Nature (2020-10-21) | doi: 10.1038/d41586-020-02883-4 | Antimicrobial resistance


このOutlookの作成に当たって、塩野義製薬の財政支援に感謝いたします。全ての編集コンテンツについての責任は、Nature が単独で負っています。

「薬剤耐性(AMR)」へ戻る

プライバシーマーク制度