Ioannis Binietoglou
Credit: Nature by Giacomo D'orlando
私は米国マサチューセッツ州ボストンの非営利団体クリーンエア・タスクフォースで働いています。最新のエネルギー技術の促進と普及を通じて温室効果ガスの排出量を削減することを目指す団体です。世界中の組織や政府に対して、方針や政策の変更を求める働き掛けも行っています。温室効果ガスの中でも、私はメタンに注目しています。メタンが環境に及ぼす悪影響は、二酸化炭素の80倍も大きいからです。
写真は、ギリシャ南部の炭鉱で、私たちが最近導入したツールをテストしているところです。石炭を採掘すると、岩石中に貯蔵されていたメタンが放出され、地球規模の温室効果ガス排出量に大きな影響を及ぼします。地面に置かれた黄色い箱はメタン測定装置で、私が手にしているタブレットは、GPSデータと特別に設計されたソフトウエアを使って、その場所のメタン地図を作製します。
私たちはこれまでに、ガーナの研究者らと共にこのキットを使用してきました。今後、コートジボワール、モロッコ、コロンビアにも持っていく計画です。キットをあちこちに持って行くことで、できるだけ多くの人が利用できるようにするのが狙いです。
このキットが生成する極めて局所的な情報は、特定の場所でメタンが生成していることの証明になるので、企業や政府に変化を迫る上で役に立ちます。メタンが出ている場所、例えば破損したパイプなども、正確に特定することができます。
研究者は、局所的な情報を人工衛星データと組み合わせることで、メタンの濃度を高い精度で数値化し、各国に「グローバル・メタン・プレッジ」などの公約を順守させることができます。グローバル・メタン・プレッジは2021年に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で発足した取り組みで、2030年までにメタン排出量を30%削減することを目標に掲げています。
このキットでメタンを測定する作業は、狩猟に似ていると感じます。メタンは目に見えないので、測定中に突然、自分がメタンガスの中にいることを教えられるのです。刺激的な体験です。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 3
DOI: 10.1038/ndigest.2025.250348
原文
I help researchers to measure methane at a local level so that we can make global changes- Nature (2024-12-05) | DOI: 10.1038/d41586-024-03927-9
- Oscar Allan
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