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生体分子の微結晶およびナノフィブリルにおけるカイラルフォノン

Nature Photonics 16, 5 doi: 10.1038/s41566-022-00969-1

カイラルフォノンは、共有結合や分子間結合でつながった原子団の協調的な鏡面対称運動である。生体分子結晶におけるそうした格子振動は、短距離組織化や長距離組織化に対して非常に特異的なはずであるが、そのキロプティカル(キラル光学的)な特徴や構造と特性の関係は、まだよくわかっていない。今回我々は、テラヘルツ・キロプティカル分光法によって、アミノ酸やペプチドのマイクロスケールやナノスケールの結晶におけるカイラルフォノンの検出と特定が可能になることを示す。理論解析とコンピューターシミュレーションによって、左手系と右手系のエナンチオマーについて観測されたシャープな鏡面対称バンドが、水素結合で相互につながってらせん状の鎖を形成した生体分子の集団振動に由来することが示されている。微細な構造変化に対してカイラルフォノンが敏感であることを利用して、健康補助食品に用いられる外見的には同一のジペプチド製剤において、物理的な違いや化学的な違いを特定できた。インスリンのアミロイドナノフィブリルについて観測されたカイラルフォノンによって、今回の知見の普遍性が実証された。そのスペクトルの特徴と偏光回転は成熟段階に強く依存しており、この結果は、テラヘルツフォトニクスの医学的応用への扉を開くものとなる。

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