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患者データはCOVID-19研究をどのように支えているのか

Nature Medicine 27, 9 doi: 10.1038/s41591-021-01493-5

2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック(世界的大流行)が始まった頃、研究者や臨床医が何としてもすぐに答えが必要だと考えている問題のリストは絶望的な長さとなっていた。そして、COVID-19の症状、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ウイルスはどうやれば検出でき、どう対処すればいいのか、治療法やワクチンはどうなっているのかといった疑問に対処する最良の方法は、前例のない規模での研究をできるだけ迅速に進めることとされたのである。英国では、2020年3月にRECOVERYと命名された臨床試験が国中の病院で数万の患者に対して行われ、モノクローナル抗体カクテル、ステロイド薬などのCOVID-19に対する治療法が一斉に調べられ、探索された。RECOVERYは、患者の健康データを取り込み、能率化されたリアルタイムの大規模研究プロジェクトの一例にすぎない。こうしたデータセットはたちまち数を増し、治療法の開発やワクチンの試験は大規模データベースに基づいて行われている。だが、同時に患者のプライバシーについての懸念も徐々に広まり、政府や医療関係者、民間企業に加えて、国民の間でも多様なデータの扱いが議論されるようになった。大量に集められたこの貴重な収集物が、パンデミックが収束した後にどうなるのか、今回の感染症以外の疾患の解明にも使える可能性があるとして、収集を続けることやアクセスを容易にすることを望む声も多かったが、データベースの質の不均一性やアクセスの仕方が違うことなど問題が多いことも分かってきたのである。そして、2021年に英国国民保健サービス(NHS)が家庭医診療記録から医療履歴データベースを作ることを提案した際には、患者のメンタルヘルスや犯罪記録まで取り込むというこの計画に反対する騒ぎが大きくなり、計画は延期された。透明性が高く、侵入に対するガードが堅く、倫理的に運用されるデータベースならば、一般から今得られている「もろい」信頼を強化するのに役立つかもしれない。しかし、こうした信頼は世界的な危機の場合の後どうなるのか、それについて懸念する関係者が増えている。

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