Editorial

COVID-19ワクチン:証拠に基づいて決定を下す

Nature Medicine 27, 2 doi: 10.1038/s41591-021-01261-5

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する安全で有効なワクチンが開発・承認されて接種が開始されたことは、今回のパンデミック(世界的大流行)の収束が近いかもしれないという期待をもたらした。ファイザー社・ビオンテック社、NIH・モデルナ社、それにオックスフォード大学・アストラゼネカ社の3種類を含む複数のワクチンが、1年もかからずに多数の国で承認されたことは科学における前例のない業績である。どのワクチンも、有効性・安全性が前臨床研究と臨床研究によって厳しく評価され、厳密に管理された第3相臨床試験が成功を収めている。

各国の政府は、パンデミック当初の対応の出遅れとは対照的な素早さで、医療従事者とエッセンシャルワーカー、それに高年齢者などの弱者への接種を優先とすることを中心とした接種プログラムを作成し、接種を開始した。しかし、限られた量のワクチンでカバーできる人数を増やすために、あるいは感染性が高いらしい変異株ウイルスの出現という脅威のために、推奨されるワクチン接種戦略が、一部の国では確実な科学的証拠なしに変更されている。例えば、ファイザー社・ビオンテック社のワクチンは2回の接種の間隔を臨床試験の結果に基づいて21日としているが、英国政府はワクチン接種と予防接種に関する合同委員会の提言によって、臨床試験を行うことなく、これを12週間に延長した。また、感染症例が急増しつつあるイスラエルでは2回目の接種を受けていない例が増えている。

SARS-CoV-2については、ゲノム塩基配列の解読が各国で進み、パンデミックの始まった時点に比べると疫学的特性や宿主の免疫応答、臨床症状などの解明が大きく進んでいるが、感染性が高い、あるいは毒性の強いウイルス変異株の出現、後遺症の問題など、我々の知識にはまだ大きなギャップが残っている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者の数はすでに200万人を超え、こうした脅威的な数字は、できるだけ多くの人へ迅速にワクチン接種を行うことを正当化するかもしれない。しかし、このウイルスについて未解明の問題が多く残る中で、確実なデータに基づいて決定され、臨床試験で厳密に検証されたワクチン投与方式から外れることは非常に危険であり、現在行われているワクチン戦略を失敗させ、ワクチンに対する社会の信頼を損ない、予想外の、長期にわたる不都合な結果を招くことになりかねない。パンデミックを収束させる戦略の中心となるのは、堅固な科学的証拠を基盤とするワクチン接種政策でなくてはならないのだ。

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