Editorial

心の健康に留意しよう

Nature Medicine 26, 5 doi: 10.1038/s41591-020-0914-4

COVID-19パンデミックは世界中に広がり続け、人々の努力は、当然のことながら、直近の医療上の必要に対処すること、つまりウイルスの伝播を遅くして感染数を減らし、死亡を防ぐことに集中している。しかし、パンデミックに突入して4か月が経ち、この危機の終わりが全く近づいていないことがはっきりしてきた今、公衆衛生の異なる次元に属するといえるまた別の問題、つまり人々の心の健康と幸福にパンデミックがもたらす被害という問題が浮上してきた。

過去のアウトブレイクの研究からは、パンデミックのような危機が集団規模のメンタルヘルスに及ぼす有害な影響についていくつかの知見が得られている。2003年のSARSエピデミックの際には、65歳以上の自殺が30%増加した。医療従事者のほぼ30%が精神的苦痛を感じ、疾患からの回復者では心的外傷後ストレス障害とうつ病のリスクが上昇した。隔離のような緩和戦略はウイルスの封じ込めに必要だが、精神医学的には負の影響、心的外傷後ストレス障害や情動障害、うつや不眠症などを引き起こす。世界的な経済の低迷による失業や金銭的な苦闘(これらは現在のパンデミックでもすでに起こっている)は、心の健康の長期にわたる悪化と関連付けられている。そして、現在進行中のパンデミックが関連しているストレッサーの規模、広がりや複雑性は、近年では前例がないものだ。

これからどういう事態が到来するのかについて、正確な予想は無理だが、精神面の健康を脅かし、速やかな対策が必要な問題が急増する兆しは、すでに見えている。実際、中国でCOVID-19患者のケアに当たった1000人を超える医療従事者がうつ(50%)、不安(45%)、不眠(34%)や苦痛(72%)を訴えている。パンデミックの最前線で不可欠とされたエッセンシャルワーカー(医療従事者、救急隊員、警察官など)や患者、患者の介護者、基礎疾患を持つ人々、それにすでにメンタルヘルスに問題がある人たちは特に、精神的健康に障害が起こりやすいと予想されている。パンデミックが世界的に作り出しているこの危機的状況下で、最もリスクの高い人たちのメンタルヘルスの長期にわたる悪化を防ぐためのプランは、現時点でのCOVID-19への対応の中で最重要問題の1つである。

COVID-19パンデミックは、当初の予想を越えて長引くと予想されるようになった。それならば、集団規模での精神的健康、感情的な幸福や社会的幸福が受けると思われる破壊的影響には十分注意を払わなければいけない。こうした問題に簡単な解決法はないと思われるが、心理学、精神医学、行動科学や社会科学を専門とする研究者たちによる質の高い研究に最近のデジタルヘルス研究における革新が加われば、ヘルスサービスは有効で個別的なメンタルヘルスケアを、それを必要とする人々に積極的に提供できるようになるだろう。

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