Editorial

抵抗感に負けずにワクチン接種を進めよう

Nature Medicine 25, 7 doi: 10.1038/s41591-019-0524-1

2012年、世界保健総会は世界ワクチン接種行動計画(GVAP)を承認し、その目標の1つは世界保健機構(WHO)が定める6地域のうちの少なくとも5つで、2020年までに麻疹(はしか)を根絶するというものであった。この目標は、低所得国での過去10年間の麻疹ワクチン予防接種率の増加を考えれば達成可能であろうと考えられていた。にもかかわらず、2019年に麻疹は全世界で急増しつつある。WHOによれば、2019年の1月から3月までの患者数は2018年の同時期の3倍となっている。米国は、麻疹の国内感染は国境内では2000年内に消滅したと宣言したが、患者数はすでに1992年以降で最大となっている。

麻疹ワクチンが利用可能なのにもかかわらず、ワクチン接種に対する抵抗感が接種の遅れや接種拒否につながり、これが全ての地域で疾病の流行を後押しする主要原因となっている。2019年初頭、WHOはワクチンへの反感が、世界の健康に対する主要な10の脅威の1つであると宣言した。現在進行中の麻疹の流行が悲劇であることはいうまでもないが、保健医療当局にとっては、ワクチンへの抵抗感の大きさを正確に把握し、さまざまな理由でワクチン接種を遅らせたり拒否したりする地域社会に対処する医療供給システムを援助し、抵抗感が薄らぐように努力して予防接種事業への信頼を再建し、それを持続するための好機でもある。

ワクチンに対する抵抗感を生じさせる理由のトップに挙げられるのはワクチンの安全性への懸念と副作用である。反ワクチン運動の有害な影響を克服するのは非常に難しい。主な医療関係者はワクチン開発計画の全体をしっかり把握し、ワクチンの安全性を確保する監視システムについて説明できるようにしておく必要がある。ワクチン接種の利点を説明し、接種を遅らせたり拒否したりする親の懸念に対処するためにはどのような方法が最適か、これについても情報が必要だ。病気に罹患した際の危険を適切に伝え、さまざまな要因を考えればワクチンは全てのヒトにとって安全とは限らないことも警告しながら、そのメリットを理解してもらうためには、コミュニケーション技術に関するさらなる研究が必要だろう。

もし米国内で麻疹が今年の秋の間も流行し続けるならば、根絶宣言は撤回となるかもしれない。重要なのは、ワクチンに対する抵抗感の影響が麻疹ワクチンに止まらず、他のワクチンにも広がる可能性があることだ。比較的制圧しやすい疾患である麻疹の根絶を達成できなければ、ワクチンで予防可能な動態がもっと複雑で、ワクチンの効果にもばらつきのある他の疾患を根絶できる可能性はずっと低くなる。学齢の小児に対するワクチン接種の適用除外措置の制限は、米国内での流行への対応として歓迎すべき進展ではあるが、部分的解決にしかならない。ワクチン接種が本当に効果を上げるには、ワクチンへの抵抗感の大きさを知った上で、それに対応しなくてはいけない。今回の麻疹流行を好機として利用して態勢を変化させない限り、米国は次の伝染病流行の予防に対する備えを改善することはできないだろう。

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