Editorial

多様なHIVワクチンが臨床試験で試される

Nature Medicine 25, 5 doi: 10.1038/s41591-019-0460-0

 2019年3月、抗レトロウイルス療法(ART)を現在受けていないHIV感染者でHIV-1が長期にわたって抑制された第2の症例が報告された。この患者は、HIV-1の共受容体であるC-Cケモカイン受容体5型(CCR5)にホモ接合変異があるドナーからの幹細胞の移植を受けている(Nature 568, 244–248, 2019)。だが、CCR5受容体に異常のある細胞の移植は、安全性や実用性、コストなどを考慮すれば、一般的に実行可能な予防法もしくは治療法とはいえない。新たなHIV-1感染を防止し、この疾患の流行を縮小するには、もっと広く使える戦略が必要であることは明らかである。

 HIV伝播サイクルを断ち切るための重要な臨床介入手段の1つである予防用ワクチンの開発は、成功するかどうかがはっきりしない状態が続いていた。しかし今回、多種類のHIVワクチン(とウイルスに対する免疫治療)が第I相臨床試験に入ったことで、HIVワクチンの全体像が一変するかもしれない。これらのワクチンの開発戦略は多様で、使われているベクター、アジュバント、剤型や投与法も従来のものから全く新しいものまで、さまざまである。これらが動物実験からヒトでの臨床試験に移行することで、HIV特異的広範囲中和抗体(bNAb)がヒトで誘導されるかどうかなど、多数の疑問点が一気に解明される可能性が出てきた。

 行われようとしている第I相試験は予防戦略に限られたものではない。既存のHIV感染症を根絶するために設計された治療薬についての試験も進行中、もしくは間もなく開始される。これらにはHIVとヒトT細胞抗原の両方を標的とする新規抗原やTLR7アゴニストとワクチンの併用療法などが使われていて、多くが、治療法のウイルスリザーバーへの影響を評価できるART中断期間が試験に含まれるように設計されている。ウイルスが免疫圧を回避する速度や仕組み、リザーバーのサイズや構造への治療薬の影響、抗レトロウイルス薬が投与されていない場合のウイルス複製を制御する免疫システムの能力などに加えて、広範囲中和抗体だけでHIVを防止できるかどうかについても、答えが得られるかもしれない。

 HIV感染の制御に必須と思われる問題で解決されていないものはまだ多いが、基礎研究の成果を臨床へ移行するペースは確実に加速している。今回の臨床試験第一波の結果がどうであれ、こうしたトランスレーションの加速は、HIV感染の治療と防止対策を迅速に成功させるために、今後も維持すべきである。

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