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がん/精密医療:がん患者の分子プロファイリングは個別化併用療法を可能にする:I-PREDICT研究

Nature Medicine 25, 5 doi: 10.1038/s41591-019-0407-5

がんの治療薬は、無差別に細胞を傷害する物質から選択的にゲノムや免疫を標的とする薬剤へと進化し、一部の悪性腫瘍の転帰に大きな変化をもたらした。腫瘍の複雑性や不均一性から、がん治療の「精密医療(precision medicine)」では、治療を個々の患者に合わせること、つまり治療の個別化が必要と考えられている。これまで、がんの精密医療の臨床試験は、あらかじめ決められた単剤療法との分子マッチングに基づいて行われてきた。このような臨床試験のいくつかは、しばしば5~10%の範囲に入る非常に低いマッチング率と、低い奏効率によって妨げられてきた。低いマッチング率は、限られた遺伝子パネルの使用、分子マッチング用アルゴリズムの限界、薬剤が使用できないこと、末期患者の治療実施前の増悪や死亡などが原因である可能性がある。我々は、難治性悪性腫瘍の患者では、併用療法による個別化医療が転帰を改善するのではないかと考えた。そして、この仮説の最初の検証として、腫瘍DNAの塩基配列解読と、適当な時点で併用療法による個別化医療の推奨を行う施設間前向き研究(I-PREDICT、NCT02534675)を実施した。カスタマイズされた治療計画による多剤投与は無理がなく、同意を得た患者の49%が個別化医療を受けた。特定された分子変化の多くを標的とすると、より高い「マッチングスコア」が得られ、標的の増加は、標的とする体細胞変化がより少ない場合に比べて、疾患制御率が有意に改善しただけでなく、無増悪生存率や全生存率の上昇とも相関していた。がんの精密医療のための現在の臨床試験の枠組みは、1つのドライバー変異と1つの薬剤とを組み合わせているが、今回の知見から、分子的に複雑で不均一ながんを、カスタマイズされた薬剤の併用投与によって治療することで、こうした枠組みを最適化できる可能性があることが示された。

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