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記憶:歯状回顆粒細胞で誘導されたフィードフォワード抑制はエングラム維持と遠隔記憶汎化を支配する

Nature Medicine 24, 4 doi: 10.1038/nm.4491

記憶痕跡は海馬–皮質ネットワーク内で再編成されるため、記憶は時間が経つにつれて正確でなくなり、汎化される。心的外傷後ストレス障害(PTSD)あるいは加齢性認知機能障害の患者で起こる恐怖の過度な汎化は、記憶の正確さの時間依存的喪失の増加という特徴を持つ。海馬歯状回(DG)では、記憶は、いわゆる「エングラムを担う細胞」である歯状回顆粒細胞(eDGC)によって符号化されると考えられている。本論文では、状況恐怖条件付けにより、下流の海馬CA3野でのeDGCと抑制性介在ニューロン(IN)の間の結合が増強されることを齧歯類で示す。我々は、ABLIM3(actin-binding LIM protein 3)が苔状繊維の末端に局在する細胞骨格因子で、学習の後にそのレベルが低下することを突き止めた。DGCでのABLIM3発現の低下は、CA3淡明層IN(SLIN)との結合の増強、パルブアルブミン(PV)を発現するSLINの活性化促進、CA3へのフィードフォワード抑制の増強、およびDGでの長時間にわたる恐怖記憶エングラム維持を引き起こすのに十分であった。また、DGCでのABLIM3発現の低下は、海馬–皮質ネットワークや扁桃体ネットワークでの記憶痕跡の条件付けされた状況特異的な再活性化をもたらし、遠く離れた(すなわち、長時間を経た)時点での恐怖記憶の汎化を低下させた。加齢に伴いCA3に過度の活性が観察されることと一致して、17か月齢マウスではDGC–SLINの結合が学習によって増強されることはないが、ABLIM3発現の低下はDGC–SLIN間での結合を回復させ、PV+ SLINを活性化し、遠隔記憶の精度を改善するのに十分であった。これらの知見は、DG–CA3のフィードフォワード抑制の分子ブレーキを標的とする結合ベースの戦略の例を示すもので、PTSDを有する患者での記憶の時間依存的汎化の低下や、高齢者の記憶精度の改善に使える可能性がある。

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