Editorial

刺激策 — 神経変性疾患治療薬の研究開発に活を入れる

Nature Medicine 24, 3 doi: 10.1038/nm.4515

パーキンソン病の患者が世界で1000万人を超え、アルツハイマー病の患者は4000万人に達すると見積もられている現在、このような神経変性疾患の治療薬の開発は喫緊の課題である。

しかし今年1月、米国ファイザー社は神経変性疾患の治療薬開発の中止を決定した。莫大な研究費を長期にわたって注ぎ込んだのにもかかわらず、成果が上がらなかったことがその理由である。最後の新薬の登場から15年たったが、まだ新しい治療薬は開発されておらず、研究は行き詰まっている。

ファイザー社は自力での開発を断念する一方で、有望な神経科学研究、特にアルツハイマー病とパーキンソン病の治療薬開発を狙う中小のバイオテクノロジー企業に投資するベンチャー基金を設置する計画について言及している。詳細はまだ明らかになっていないが、小規模な企業が創薬の基礎研究を行う資金を負担することは、大企業にとっては自前での開発に比べてかなりの節約になり、またリスクを分散することになる。基礎研究をこうした方法で外注することで、失敗続きの薬剤開発の標的をアミロイドβに絞らず、炎症経路や代謝などに広げることが可能になるかもしれない。他の大手製薬企業も、企業間での共同研究の拡大に踏み切るなど、今までの研究方式を変更しつつある。認知症のような非常に困難な問題の研究を大手企業が協力して行うようになれば、基礎研究が加速され、多様な視点からの取り組みが可能になるだろう。また、製薬大手と中小企業の研究チームの間の縄張り意識の解消にもつながりそうだ。

困難な薬剤開発研究を持続し、問題を打開していくためのもう1つの方法は、2015年に発足したDementia Discovery Fundのような、認知症の治療薬開発を行う企業への長期的投資によって研究開発を支援する基金の設立である。この基金に私財5000万ドルを投資する考えを明らかにしているビル・ゲイツは、基金は主要な製薬各社の努力を補完するものになるだろう、と述べている。

神経変性疾患治療薬開発に向けた基礎研究には、どのような研究であれ、長期にわたる資金投入が必要であることははっきりしている。中小企業の参入を加速して基礎研究の多様性を維持し、さまざまなアイデアを導入して、これまでとは異なる角度からこの種の疾患に取り組むことは、停滞している研究を活性化させ、投資を持続させることにつながるだろう。

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