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がん:幹細胞性に関連するZEB1–MSRB3軸は細胞の適応性と乳がんゲノムの安定性を支配する

Nature Medicine 23, 5 doi: 10.1038/nm.4323

染色体不安定性(CIN)は、成体のほとんどの新生物で初期段階からずっと続いて見られる特徴であり、腫瘍形成のドライバーである。しかし、トリプルネガティブ乳がんの一部など、複数の悪性腫瘍サブタイプではゲノム異常があまり見られないことから、腫瘍発生はCINがなくても起こりうると考えられている。本研究では、正常なヒト乳腺上皮細胞の分化状態が、発がん性事象後の細胞の挙動に影響し、悪性腫瘍へ向かう遺伝学的経路を方向づけることを明らかにした。分化した細胞でのがん遺伝子の誘導は大規模なDNA損傷を引き起こすが、乳腺幹細胞は抵抗性を示し、これは転写因子ZEB1とメチオニンスルホキシドレダクターゼMSRB3による先制的プログラムによるものである。がん遺伝子が誘導するDNA損傷を抑制すると、がん抑制性でp53依存性のDNA損傷応答が誘導されなくなり、その結果、幹細胞に内在する悪性形質転換への感受性が増加する。このモデルと合致して、乳腺新生物のサブクラスの1つではZEB1の高発現や低頻度のTP53変異、CINの低下などの独自の病理学的特徴が観察された。

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