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統合失調症:ニコチンは嗜癖と統合失調症の動物モデルで前頭葉機能低下を回復させる

Nature Medicine 23, 3 doi: 10.1038/nm.4274

前頭葉前皮質(PFC)は高次認知過程の基盤であり、こうした認知過程はコリン作動性入力によるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の活性化によって調節される。PFCで自然に生じるデフォルト活性には、統合失調症などの神経精神医学的疾患では変化が見られる。統合失調症は、多量の喫煙を伴うことがある疾患である。最近、ゲノム規模関連研究(GWAS)により、nAChRのα5サブユニットをコードするヒトCHRNA5遺伝子の一塩基多型(SNP)が、喫煙と統合失調症の両方のリスクを上昇させることが明らかになった。nAChR遺伝子機能の変化したマウスはPFC依存的な行動異常を示すが、これに対応するヒト多型が喫煙行動の根底にある細胞機構や回路機構を変化させる仕組みは明らかになっていない。今回我々は、ヒトα5のSNPの1つを発現するマウスが、社会的相互作用実験や感覚運動情報制御機能課題で神経認知行動障害を示したことを報告する。覚醒しているマウスモデルでの2光子カルシウム画像化から、ニコチンが皮質II/III層の階層的な抑制回路のnAChR調節によって、PFC錐体細胞の活性に特異的に影響を及ぼすことが分かった。α5-SNPを発現するマウスおよびα5ノックアウトマウスでは、血管作動性腸管ポリペプチド(VIP)介在ニューロンの活性低下がソマトスタチン(SOM)介在ニューロンの活性上昇を引き起こし、皮質II/III層の錐体ニューロンの活性が抑制される。α5-SNPを発現するマウスで観察された活性低下は、統合失調症や嗜癖などの精神疾患の患者で観察される前頭葉機能低下に類似している。この前頭葉機能低下は慢性的なニコチン投与により回復することから、ニコチンの投与が統合失調症の治療戦略となる可能性が明らかになり、また、統合失調症患者が喫煙による自己治療を行う傾向があることの生理学的基盤が示された。

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