Editorial

ゲノム関連解析から性染色体を外してはいけない

Nature Medicine 23, 11 doi: 10.1038/nm.4445

ヒトゲノムの遺伝子関連解析では、X染色体が省かれることが多い。それはこの染色体の解析には独自の難しさがあるからだ。X染色体は半数体のヒトゲノムの約5%を占めていて、ほぼ2万個の遺伝子を含むが、タンパク質をコードする遺伝子は800個程度である。この染色体に生じた変異はメンデル性疾患のほぼ10%を占める。また、うつや多数の自己免疫疾患などの一部の疾患は男性よりも女性の方に多いことから、こうした疾患にはX染色体が直接的あるいは間接的に影響を及ぼしていると考えられている。しかし、X染色体のマーカーが少ないことや男性と女性でX染色体のコピー数が異なること、さらに女性の細胞でのX染色体不活性化という厄介な問題、さらにこれらの難問を解決するための統計学的処理の複雑さなどは、性染色体の解析をずっと妨げてきた。

だが、新しい手法も開発されている。その1つのXWASというX染色体解析用のソフトウエアを使って行われた、以前のGWASの結果の再解析では、炎症性大腸炎(IBD)と1β3GalT特異的分子シャペロンをコードする遺伝子COSMCとの関連が突き止められ、新しい治療薬の開発など多くの成果が期待されている。こうした例にもかかわらず、2016年に公表された、複雑な形質に関する41の関連解析のうちの25ではX染色体が完全に省かれており、その他の16の解析でもX染色体上にあって疾病に関連する遺伝的バリアントを詳細に吟味するための特別な統計的処理などが行われていない。これはY染色体についても同様であって、関連解析が行われないことが多い。

性染色体を考察の対象にすべきなのは遺伝的関連解析だけではない。遺伝子発現における性差についての研究は増加しつつあり、本誌にも、大うつ病に関連する脳内の複数の領域について男女の転写プロファイルを比較する論文が最近、掲載されている。ゲノム研究における性染色体の影響の評価が怠られてきたことは、研究手法がなかったためということになるだろうが、研究者の熱意のなさも一因である。ゲノム解析に性染色体を組み込むためにはいささかの努力が必要だが、性染色体を省くという慣行は止めるべきときにきている。上質の科学研究を目指すなら、手抜きは禁物である。

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