Editorial

黙していることを止める

Nature Medicine 22, 10 doi: 10.1038/nm.4209

新薬がFDAに認可されるまでにはかなりの時間がかかるが、画期的新薬と認定されるとそれが大幅に短縮される。自殺のリスクが高い大うつ病に効果があるとされるエスケタミンは、8月にこの特例に該当することが認められた。こうした薬剤の開発が急がれる理由は、15歳から29歳までの集団では世界的に自殺が第2番目の死因であるという事実から明らかである。また、米国の自殺率は過去30年ほどで最悪のレベルに急上昇していて、こうした悲劇がもたらす損害は、あらゆる面で計り知れない。FDAは自殺リスクに適応するという薬剤はこれまで認可していない。ケタミン類は迅速に効果を発揮して、うつ症状を改善し、その結果として自殺企図を防止できる可能性が高いが、自殺企図の分子的、また細胞学的基盤を解明した上で、薬剤の作用機作を明らかにするにはさらなる研究が必要であることは言うまでもない。社会的に自殺に関する意識を高め、自殺に関してオープンに話し合える状況を作ることは、自殺防止研究を推進する助けとなる。研究の基礎的また臨床的成果を、ジャーナルが積極的に掲載することも、さらに研究費を増やす一助になるだろう。自殺に関して論じることを避ける現状は変えなくてはいけない。社会の各方面で広くこのような変化が起これば、生命を脅かすこの重大な症状についての研究を進めるための投資も増え、それが自殺のリスクの高い人々を治療するための最初の認可薬の実現につながるはずだ。

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