Letter

創薬:ハイスループット化合物スクリーニングによって明らかになった、ハルミン介在性DYRK1A阻害によるヒト膵臓ベータ細胞の複製増大

Nature Medicine 21, 4 doi: 10.1038/nm.3820

1型と2型の糖尿病に罹患している人の数は、世界中で3億8千万人にのぼる。どちらの型でも、究極的な原因はインスリンを産生する膵臓ベータ細胞の機能喪失である。ヒトでは、ベータ細胞の増殖が起こる期間は短く、出生前後の時期に始まり、細胞周期に入っている細胞の割合がピーク(ほぼ2%)となるのは出生後の1年間である。胎生期、また新生児期以降はベータ細胞の複製はほとんど検出されない。ベータ細胞の増殖がベータ細胞消失に対する治療方法となることは明白と思えるが、ヒト成体ベータ細胞は増殖を起こさせるのが非常に難しいことが示されている。したがって、in vivoあるいはex vivoでヒト成体のベータ細胞の再生や増殖を誘導できる抗糖尿病治療薬は緊急に必要とされている。我々は、ハイスループットの低分子スクリーニング(HTS)を行い、低分子化合物ハルミンの類似体が、ヒトベータ細胞の分裂を促進する新種の化合物として機能することを見いだした。また、DYRK1A(dual-specificity tyrosine-regulated kinase-1a)が、ハルミンの標的候補であること、転写因子のNFAT(nuclear factors of activated T cells)ファミリーが、ヒトベータ細胞の増殖と分化の調節因子であるらしいことも分かった。マウスとヒトの膵島に関する3種類のin vivoモデルを用い、ハルミンがベータ細胞の増殖を誘導し、膵島量を増加させ、血糖調節を改善できることが示された。これらの結果は、ハルミン類似体が、ヒト糖尿病治療に対する、他に類を見ない治療薬となる可能性を持つこと示唆している。このような化合物の効果とベータ細胞特異性を向上させることが、今後の重要な課題である。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度