Editorial

ミトコンドリアの操作という問題

Nature Medicine 20, 5 doi: 10.1038/nm.3570

生殖細胞系列細胞中の病因となるDNA変異を持っているミトコンドリアを置換する方法は最近大きく進歩し、ミトコンドリア病の治療に使えるのではないかという大きな期待も寄せられている。だが、倫理的また科学的に懸念されている問題は多く、これらはこの方法の臨床での使用が許可されるまで、継続的に議論していくことが必要と考えられる。ミトコンドリアDNAの変異は母親から引き継がれ、1つの細胞中に正常なmtDNAと変異したmtDNAが混在し、変異したものの割合がある閾値を超えると疾患が発症することが多い。現在のところ、このような疾患の治療法はなく、健康な子供を持つための選択肢は、胚の着床前遺伝子診断により変異ミトコンドリアの数を減らす、あるいは検出できる変異が限られていてエラーも多い出生前検査など、ごく少ない。新たに開発された技術は、子孫でのこの疾患のリスクを減らすために卵子中の遺伝物質だけをレシピエントの卵に移植するというものだが、まだ技術自体の有効性や長期にわたる安全性、子孫での発症を確実に防げるのかどうか、残存した変異ミトコンドリアの子孫への影響などの検証すべき問題が多数残っている。さらに、さまざまなミトコンドリアハプロタイプが1つの細胞中に存在することは、核-ミトコンドリアの不適合を惹起する可能性があり、これらに加えて、臨床実験の倫理性や安全性の問題も警告されている。こうした技法に対して前向きの姿勢を示す英国に対して、米国FDAは臨床試験実施についての検討を延期するなど、より慎重な態度をとっている。このような状況では、こうした懸念がある程度払拭されて、技術を管轄する機関が有効性に確信を持てるまで、前臨床的研究や臨床試験による評価がさらに重ねられることを我々は望んでいる。

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