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神経疾患:アストロサイト由来のATPはうつ様行動を調節する

Nature Medicine 19, 6 doi: 10.1038/nm.3162

大うつ病性障害(MDD)は能力低下の原因となっており、世界人口の約16%に影響を与えている。しかし、この障害の原因となる生物学的過程についてはほとんど知られていない。動物実験、死後脳の解析およびうつ病患者の脳画像化研究から、MDDの病態生理学的性質にグリア細胞の機能不全が関与することが示されている。しかし、アストロサイトがうつ行動を調節する分子機構はほとんど解明されていない。本論文では、成体マウスにおけるうつ様行動のアストロサイトによる調節に関わる重要な因子の1つがATPであることを示す。慢性社会的敗北ストレスの影響を受けやすいマウスの脳ではATP量が少ないことが観察された。また、このようなマウスでは、ATPの投与が抗うつ剤様効果を迅速に誘導することがわかった。イノシトール1,4,5-トリスリン酸受容体2型の欠損、および小胞型グリア伝達の遺伝子導入による遮断は共にアストロサイトからのATP放出不足を誘発し、うつ様行動を引き起こすが、このような行動はATPの投与によって救済された。アストロサイトに限ってGq Gタンパク質共役型受容体を発現させることによってアストロサイトのCa2+シグナル伝達を選択的に活性化可能なトランスジェニックマウスを用いて、アストロサイトからの内因性ATP放出の促進が、うつ病のマウスモデルで抗うつ剤様効果を誘導することがわかった。また、内側前前頭皮質のP2X2受容体がATPの抗うつ剤様効果を仲介することも見いだされた。これらの結果はアストロサイトからのATP放出がMDDの生物学的機構であることをはっきり示している。

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