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血液疾患:鎌状赤血球症におけるアデノシンシグナル伝達の有害な作用

Nature Medicine 17, 1 doi: 10.1038/nm.2280

鎌状赤血球症(SCD)では、低酸素状態が赤血球の鎌状化およびその結果として生じる終末器官の損傷を引き起こす最初の誘因となることがある。低酸素状態に応答して多くの因子や代謝物に変化が生じ、それがこの疾患の病因に寄与しているのかもしれない。我々はメタボロミクスプロファイリングを行って、SCDの遺伝子導入マウスモデルでは定常状態の血中アデノシン濃度が上昇していることを見いだした。アデノシン濃度は、ヒトSCD患者の血液中でも同様に上昇していた。アデノシン濃度の上昇は、SCD遺伝子導入マウスでは赤血球鎌状化、溶血、多臓器の損傷を、ヒト赤血球では鎌状化を促進した。生化学的、遺伝学的、薬理学的手法を使って、アデノシンA2B受容体(A2BR)が介在して誘導される2,3-ジホスホグリセリン酸(ヘモグロビンの酸素結合親和性を低下させる赤血球特異的代謝物)が、培養ヒト赤血球とSCD遺伝子導入マウスの両方で、過剰なアデノシンによる赤血球鎌状化誘導の原因であることが明らかにされた。したがって、A2BRを介する過剰なアデノシンシグナル伝達は、SCDの病因にかかわっている。以上の知見は、鎌状赤血球症に対する治療に新たな可能性をもたらすと考えられる。

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