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Nature Video活用事例

太陽フレアで明らかになるノース人の足跡

When Vikings lived in North America

An animated tale of giant solar storms, ancient sagas and the latest radiocarbon dating technology.

The Norse sagas tell tale of an epic voyage to an unknown land to the West of Greenland. Now, scientists have used a clever combination of tree rings, carbon dating and ancient solar storms to reveal that Vikings lived in North America exactly 1000 years ago.

Read the paper: https://www.nature.com/articles/s4158...

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放射性炭素年代測定によって、バイキングと呼ばれる人々が海を超えて渡り、アメリカ大陸に定住した正確な年代を1021年と特定することができた。

今回の研究では、太陽フレアの発生による放射性炭素の濃度の変化が大きな手掛かりとなった。バイキングが切り倒した丸太の切り口に含まれる炭素を分析することで、歴史を明らかにした。

カギとなった炭素

炭素にはさまざまな種類がある。自然界に存在する炭素の約99%は、中性子6個と陽子6個を持つ炭素12であり、非常に安定した状態で存在する。その一方で、その1兆分の1しか自然界に存在しない炭素がある。中性子を8個持つ炭素14だ。炭素14は放射性炭素と呼ばれ、不安定な状態で存在する。炭素14の中性子1個が陽子1個に変わることで、陽子と中性子が7個ずつになり安定し、窒素14に変化するからだ。中性子が陽子に変わる時に、余分なエネルギーが放射線として放出されることから、炭素14は放射性炭素と呼ばれる。炭素14の半分が窒素14に変化するまでの時間(半減期)は5730年である。この性質を利用して、物の年代を測定することができるのだ。

大気中の放射性炭素の割合は常に一定となっている。宇宙空間を飛び回る高エネルギーの粒子である宇宙線が、地球の大気上層の原子にぶつかると中性子をはじき出す。そして、はじかれた中性子が大気上層の窒素に衝突すると、放射性炭素が生成される。つまり大気上層では窒素が放射性炭素に変わり、地上では放射性炭素が窒素に変わることになる。

地上では、植物による光合成を起点に炭素が循環している。植物は光合成により、大気中の二酸化炭素を取り込み、炭水化物を生成する。この炭水化物を動物などが摂取することで、放射性炭素はその生物の体内に取り込まれていく。しかし、生物が死ぬと代謝が止まるため、炭素の入れ替わりは起こらなくなる。すると、不安定な炭素14は安定した窒素へと変化していくので、遺骸中の炭素14の濃度は減少することになる。動植物に含まれる放射性炭素の濃度を調べることで、その生物が死んだ年代を測定することができるのは、こうした理由だ。

一方で、遺骸の炭素は、土壌にすむ細菌類などが栄養源として摂取する。細菌類に取り込まれた後、有機物と無機物に分解され、二酸化炭素として大気に放出されることで、炭素は循環する。

動植物に取り込まれた放射性炭素は5730年でその量が半減することから、放射性炭素は年代測定に用いられている。古文書の鑑定や火山噴火の記録、地層の堆積年代の測定など多くの場面で利用されている。

今回の研究では、木の年輪を数えることで正確な年代を測定することができた。木は生育している年の大気中の二酸化炭素を年輪に固定する。翌年以降、その外側に新しい年輪が形成されるため、内側の年輪に新しい炭素は入らない仕組みとなっている。

太陽活動と放射性炭素

今回の研究で大きな手掛かりとなったのは、太陽フレアの発生による放射性炭素の濃度の上昇だ。では、太陽活動に放射性炭素はどのように関わっているのだろうか。

太陽フレアは、黒点周辺の強い磁場の影響によって太陽表面で起きる爆発である。1000万度を超える高温のガスが作られ、強力なX線や紫外線、電波が放出される現象だ。太陽フレアの発生によって太陽高エネルギー粒子が大量に放出され、地球に降り注ぐ宇宙線の量が増加する。そのため、大規模な太陽フレアの発生は、地球上の放射性炭素の増加を引き起こすことになる。

大規模な太陽フレアが発生すると、高エネルギーのプラズマなどが流れる太陽嵐が発生し、地球に電波障害などの甚大な被害を及ぼしてしまう。

学生との議論

Credit: Lisa-Blue/E+/Getty

これまで、人類はさまざまな衛星を用いて太陽を観測してきた。太陽の外側からX線などを用いて太陽フレアなどを撮影した衛星は存在していた。2021年4月、米国NASAの太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブ(Parker Solar Probe)は、太陽の最も外側にある大気、コロナに突入した。人類初の快挙であり、太陽の磁場の構造などを解明することが目的だ。

コロナは、太陽大気の最も外側の領域を指す。温度は100万度以上で、太陽の重力と磁場によって保持されている。しかし、太陽から離れるにつれて重力と磁場は弱まり、高温による圧力でコロナのプラズマは宇宙空間に流出してしまう。このプラズマの流れが、太陽風である。

太陽風とコロナの境界は、アルベーン臨界面と呼ばれる。太陽探査機パーカー・ソーラー・プローブは、太陽表面から1316㎞の距離に突入し、コロナの磁場や粒子を観測した。5時間の観測で、探査機はアルベーン臨界面を複数回出入りし、臨界面に凸凹があることを明らかにした。今後は太陽表面から620kmの距離まで近づく計画だ。

学生からのコメント

過去の出来事を、今回のように正確な年代として確定できたことは、神話に記されたことや、さまざまな歴史的な話題の解明や人類の活動の広がりを理解する上で重要なカギになるのだと感じた。このような研究のさらなる発展や広がりに期待している。(内冨 椋介)

ストラディバリウスがあれほど貴重な理由の1つは、製作当時の太陽活動が弱く、太陽光の放射量が下がり、木が育ちにくくなり、その時代を生き抜いた質の良い木材を使ったからだという。太陽活動を通して見ると、他にも明らかになってくることがあるかもしれない。(長澤 慎太郎)

Nature ダイジェスト で詳しく読む

放射性炭素年代測定法が絵画の贋作を見破る捜査ツールに
  • Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220618

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Nature ダイジェストISSN 2424-0702 (online) ISSN 2189-7778 (print)