Nature Video活用事例

皮膚で活躍する微生物

日々、過酷な環境から私たちを守っている皮膚。人体で最大の臓器ながらも、存在が当たり前すぎて、皮膚にどんな世界があるのか、あまり意識されていないかもしれない。皮膚に棲む微生物のバランスを整えるという方法で、若年層が悩むニキビを解決しようとする新しいアプローチを紹介する。

皮膚は面積・質量ともに最大の臓器であり、直接触れることのできる唯一の臓器でもある。さらに皮膚は直接、目に触れるものでもあり、ちょっとした吹き出物や傷などでも気になってしまう人は少なくない。そういった意味では、皮膚は体の中で最も過酷な環境にさらされる臓器だ。夏には暑さと強烈な紫外線を受け、冬には冷気と乾燥した空気に直接触れる上、細菌やウイルスなどの異物との接触が常に起こる場所でもある。また、皮膚にある汗腺からは1日当たり約1Lの汗が分泌され、体温を一定に保つという重要な役割を持つ。

皮膚の構造

外界と最前線で接触する皮膚は、表面から順に表皮・真皮・皮下組織の3層で形成される。表皮はさらに角層・顆粒層・有棘層・基底層に分けられ、基底層で作られた細胞が次々と表面に押し上げられることで、角質を構成する角質細胞へと変化していく。角質細胞は、表皮の細胞の90%を占めている。角層はわずか0.02 mmという非常に薄い層であるが、バリア機能と保湿機能を担っている。真皮は平均で2 mmの厚さがあり、繊維状のタンパク質であるコラーゲンが主成分で、汗腺や血管、リンパ管が存在し、皮膚組織の大部分を占める。皮下組織は、大部分が脂肪細胞であり、表皮と真皮を支え、断熱や保温のほか、血液を介して栄養分や老廃物を運搬する役割を担っている。

映像にもあるとおり、皮膚には腸内に次いで1000種類もの多様な微生物がすみ着き、さまざまな役割を果たしている。皮膚の常在菌のうち、主なものは表皮ブドウ球菌・アクネ桿菌・黄色ブドウ球菌の3種類だ。皮膚表面や毛穴にすむ表皮ブドウ球菌は、汗や皮脂からグリセリンや脂肪酸を作り出す。グリセリンはバリア機能を発揮して皮膚を保護し、脂肪酸は皮膚表面を弱酸性に保つことで黄色ブドウ球菌の増殖を防ぐ。アクネ桿菌は酸素が存在する環境では増殖できないため皮脂腺にすみ着いており、プロピオン酸や脂肪酸を作り出し、病原性の強い細菌の増殖を防ぐ。黄色ブドウ球菌は単に存在しているだけで有害ではないものの、皮膚がアルカリ性に傾くと増殖して皮膚炎を引き起こしてしまう。健康な皮膚は、表皮ブドウ球菌とアクネ桿菌が黄色ブドウ球菌の増殖を抑え込んでいる。

ニキビの新しい治療法

ニキビの治療には主に抗生物質が使われるが、使用方法を誤ると薬剤に耐性を持った菌が生まれてしまう。抗生物質の濫用によって耐性菌が生じ、耐性菌の感染によって疾病が生じてしまった場合、有効な抗生物質の種類が少なくなったり、場合によっては有効な抗生物質がなかったりするような事態も起こりうる(「効く薬がない『究極の耐性菌』の恐怖Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10)。このようなことから、ニキビの治療でも、抗生物質の使用を最小限に抑えて常在菌のバランスを整える治療が注目されている。

ヒトの腸内には1000種を超える多数の微生物がすみ着き、腸の運動を促進したり、有害な細菌の増殖を抑えたりするほか、免疫機能の強化の働きを担っていることが知られている。「腸内細菌を整える」ことを目的に、バランスの取れた食生活を心掛ける人も多い。

近年の研究により、皮脂が多いからといってニキビができやすいとは限らないということが明らかになり、皮膚の常在菌のバランスが大切であることが示されている。常在菌のバランスの取れた健やかな皮膚を保つために、気を付けなければならない点がある。例えば表皮ブドウ球菌は、乾燥した環境では生存しにくい。表皮ブドウ球菌が減ると皮膚がアルカリ性に傾いてしまうため、適切な保湿を心掛ける必要がある。また、表皮ブドウ球菌は角層にすんでいるため、頻回な洗顔や洗浄料の過剰使用によって角層が除去されると、表皮ブドウ球菌が減少し、他の種類の細菌が増殖するという結果になる。

ニキビに悩んだら、まず皮膚科医の適切な治療を受けて必要な薬剤を使いながら、自身の免疫力を高めるために過剰なストレスを避け、十分な睡眠と栄養、それに保湿に気を配ることが必要であるようだ。

Nature ダイジェスト で詳しく読む!

「皮膚細菌叢も免疫応答に重要」

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121004

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

私たちはうっかり転んで皮膚を擦りむいたり、カッターで切ったりすることもあるが、傷はそのうちに治ってしまい、跡も残らない。しかし、跡が残ってしまう傷もある。この違いはなぜ起こるのだろうか。

本文に示したとおり、皮膚は3層の構造でできている。皮膚が損傷を受けた後、傷跡が残るか残らないかは表皮層が再生されるかどうかで決まる。表皮層の最下部にある基底層では、基底細胞が分裂して角質細胞をつくり出す。万一、表皮そのものが部分的に失われても、真皮に毛や汗腺が残っていれば、これらの部分にある基底細胞が表皮をつくり出し、傷跡を残すことなく再生される。

傷による損傷が大きく、真皮そのものが失われてしまった場合、表皮をつくり出す基底細胞がなくなっているため、表皮は再生されない。このとき、損傷を受けた部分は真皮や皮下脂肪から繊維芽細胞が集まり、コラーゲンを作り出し、傷を主にコラーゲンで埋めていく。傷が埋まれば、その周囲の皮膚から表皮が伸びてきて、表皮も再生され、治癒する。この損傷部分を埋めているコラーゲンは、周囲の真皮との構造が異なっているために、傷跡として見えてしまうのだ。

学生からのコメント

杉澤 寛尚

皮膚にすむ微生物によって私たちの健康が守られるという共生関係が、長い進化の歴史の中で人類が獲得した神秘に感じられた。抗生物質は病気を克服するための人類の知識の結晶ではあるが、それよりも微生物本来の力が優れていることに驚いた。(杉澤 寛尚)

生沼 竜也

今まで、抗生物質は最も手軽な治療薬だと思っていて、耐性菌というデメリットについては深刻に考えていなかった。今回学んだような耐性菌と抗生物質の関係については、高校などでも積極的に情報発信をする必要性があるように感じた。(生沼 竜也)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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