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ヒトの祖先には複数の近縁種がいた

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2012.121002

原文:Nature (2012-08-08) | doi: 10.1038/nature.2012.11144 | Fossils point to a big family for human ancestors

Matt Kaplan

約200万年前の化石から、かつてアフリカの平原には、少なくとも3つのヒト属種が存在していたことがわかった。

新たに発見された頭蓋骨の化石の解析により、200万~170万年前には、少なくとも3種の初期ヒト(Homo)属種が共存していたとする論文が、トゥルカナ盆地研究所(ケニア・ナイロビ)の古生物学者Meave Leakeyを中心とする研究チームにより、Nature 8月9日号に発表された1。この成果により、古人類学の長年にわたる論争に決着がついた。

1972年、比較的平らな顔を持つ大きな頭蓋骨の化石が発見された。後に Homo rudolfensis というヒト属に分類された、標本番号KMN-ER 1470のその化石には、下顎(したあご)がなかった。それ以降発見された、頭蓋骨が大きな化石のいくつかも、H. rudolfensis に属するとされてきたが、顔と下顎がそろっているものはなかった。古人類学では、標本を特定の種(リンネ式二名法で、「rudolfensis」のような2番目の単語が表す)に分類するうえで、顔と顎が指紋のような役目を果たしている。属のような幅広い分類(リンネ式二名法では、「Homo」のような先頭の単語が表す)を決めるのとは訳が違うのだ。このため、これらの標本が、Homo habilisHomo erectus といった、同時代に生存していたヒト属種に属する可能性を否定できず、論争となっていた。

今回発見された下顎とKMN-ER 1470の頭蓋骨上部を組み合わせた復元画像。共に謎のヒト属種 Homo rudolfensis のものと考えられている。

F. Spoor

新たな化石は、ケニア北部のクービ・フォラと呼ばれる砂漠地帯で発見された。それは、2つの下顎と、子どもの顔の下部という3つの化石だった。「周囲の岩の中から子どもの顔が徐々に現れ、KMN-ER 1470との類似がはっきりしたときには、とても興奮しました」とLeakeyは振り返る。子どもの顔には、頬骨と口蓋との結合部が大きく前に出ているという特徴が見られた。さらにこれらの化石の解析を進めると、歯列弓(口の前部の歯が形成する弧)がKMN-ER 1470の頭蓋骨の口蓋構造ときわめてよく似たほぼ長方形であることが明らかになった。これに対し、平均的な現代人の歯列弓はカーブしている。

ヒト属は何種いたのか

一方、今回の知見から、新たに多くの疑問も生じてきた。例えば、KNM-ER 1802という下顎の化石標本は、H. rudolfensis のものと広く考えられているが、今回の化石に比べ、歯列弓が丸みを帯びているように見える。このことからLeakeyらは、KNM-ER 1802がおそらく別のヒト属 H. habilis に属するのではないかと考えた。これに対し、ジョージ・ワシントン大学(米国ワシントンD.C.)の古生物学者Bernard Woodは、「確かに H. habilis かもしれませんが、別の種である可能性もあります」と語る。H. habilis の骨がもっと発見されるまでは、確かなことは何も言えないのだ。

進化史の一時期に、少なくとも3種のヒト属が共存していたとすれば、異なるヒト属は互いの仲間内でどのように振る舞っていたのだろうか。さらに、ヒト属が何種類存在していたのか、そしてそれらが同時に生存していたのかどうかがわかれば、ヒト系統の進化の歴史の中で、複数のヒト属どうしの激しい競争があったのか、それともある種から別の種へ粛々と移行してきたのかがわかるだろう。

Woodはこう語る。「地質学的年代測定では粗すぎるため、こうした種が同時期に同じ場所にいたと断言することは、現状ではできません。しかし、そうした種の間で相互作用があった可能性は十分にあります。もしそうならば、それがどんな相互作用だったか知りたいですね」。

しかし、カリフォルニア大学バークレー校(米国)の古生物学者Tim Whiteは、Leakeyらの研究は本末転倒だと主張する。「わずかな歯や顎、顔の下部をもとに、いったいどうやったら正確に化石の種を特定できるんですか。現存するたった1つの種である我々 Homo sapiens にだって、個体間に大きなばらつきがあることがわかっているんですよ」。

だが、Leakeyは一歩も引かない。「今回の化石とKNM-ER 1802との間に見られるのと同じくらい特徴にばらつきがある何らかの霊長類を見つけて、反論しますよ」と息巻いている。

(翻訳:翻訳:小林盛方、編集:編集部)

参考文献

  1. Leakey, M. G. et al. Nature 488, 201–204 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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