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陸上最大の動物で観察された高度な協力行動

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2011.110734

原文:Nature (2011-04-28) | doi: 10.1038/472424a | Large-scale cooperation

Amanda M. Seed & Keith Jensen

ヒトは高度な認知機能に基づいて協力行動をとることができる。こうした協力行動の進化の過程を解明するには、動物が共同作業をするときにどんなことを理解しているかを調べる必要がある。今回、大型動物の共同作業について、アジアゾウを用いた実験が行われ、興味深い成果が得られた。

この論評を読んでいるあなたとこれを書いたわれわれは、今まさに認知機能に基づいた協力行動をとっている。まずわれわれ2人が原稿を1つにまとめ上げた後で、編集者や制作・出版チームの手が加えられて最終形が作り出された。つまり、さまざまなコミュニケーション作業を経て作り出されたのがこの作品であり、読者であるあなたも、それを分かち合っているのである。このような行動は非常に難易度が高く、複雑な認知機能の進化の結果、もたらされたものである。お互いの関係を理解して行動に反映させるというこうした社会的な認知機能は、これまでは、ヒト固有のものと考えられてきた。

しかし最近、認知機能が大きくかかわる「協力行動」の進化的ルーツが、ヒトにごく近縁な類人猿(チンパンジーやボノボなど)にも見られる可能性を示す証拠が増えている。また、Plotnikらは今回、ゾウが、系統分類的にはヒトからかなり離れているにもかかわらず、大型類人猿と同じくらい賢く協力し合えるという研究成果1を報告した。このような個別の進化例は、「知性ある心」を形作る進化的圧力の解明に役立つのではないだろうか。

Plotnikらは、ゾウが2頭1組で共同作業しなければならないような状況を作り出すため、霊長類学者が開発した実験装置2を、ゾウの体格に合うよう大型化した。この装置では、餌を置いた平らな台を取り囲むように1本のロープが「コ」の字形に渡されている。また台の手前にはネットが張られており、ゾウは台に直接近づくことができない。そしてロープの両端のみが、ゾウの鼻が届くようわずかにネットから出ている。ゾウが1頭だけでロープの片端を引っ張ると、台からロープが抜けてしまう。台をたぐり寄せるには、2頭が共同でロープのそれぞれの端を引っ張らねばならないわけだ。驚くべきことに、ゾウたちはこの高度な共同作業を実際にできるようになったという。

彼らの実験はこれだけでは終わらず、またゾウの行動もこのレベルにとどまらなかった。ゾウたちは、2頭が実験の場に出ていない場合には、もう1頭が出てくるのを待つことを覚えたのである。また、相棒がロープに接近しないときは、ロープを全く引っ張らなかった。さらに、実験したゾウのうちの2頭は、研究チームが与えたこの課題に対して独自の解決法を見つけた。1頭は雌で、自分の持ち分のロープ端を足で踏んで押さえ、あとは相手のゾウがもう一端を引っ張るだけという状態を作った。もう1頭は雄で、餌の台に近づくよりも前に、まずゲートの所で相手が出て来るのを待つことにしたのだ。

Plotnikらの結論によれば、ゾウは協力的活動におけるパートナーの役割を理解していると考えられ、その程度はチンパンジー2,3と同じくらいらしい。また鳥類4とは差があるという。ゾウ(と大部分のチンパンジー)は、課題を始めから完璧にこなしたわけではなく、最初は、相手の登場が遅かろうと構わずに自分の目の前のロープ端を引っ張った。ミヤマガラス(カラス科の仲間)の場合、この装置で自発的にペアを組んでロープを引っ張ることは同様であったが、相手の登場を待つことはなかった。しかし、チンパンジーもゾウも、相手の登場を徐々に遅れさせていく(この手順はミヤマガラスでは行われていない)と、ペアの相手が出て来るまでは引っ張らない方がよいことを、すぐに学習した。しかも、ゾウの場合には、相手がロープの端のところに来た場合にしか引っ張らなかったのだ。

このように、実験では明白な協力行動をとることが観察されたわけだが、この協力行動自体に、必ずしも何らかの特別な社会的認知能力が必要となっているわけではない。もしかするとゾウは、お互いの協力が必要なことを理解して行動していたわけではなく、引っ張ることに価値があることを意味するような周囲の「合図」を学習していただけなのかもしれない。例えば、もう1頭のゾウがロープを鼻に持った姿を見たり、もしくはロープの張った感触を感じたりしたときに引っ張ると餌が手に入る、と学習したとも考えられる。つまり、われわれが信号が変わるのを待ち、信号に行動を合わせる方が利益になると考えるのと同じである。

ゾウが驚くほど間違いをしなかったのは確かだが、彼らは自然保護センターの中で暮らしており、観光客相手に、材木を運んだり、絵を描いたり、音楽を演奏したりする芸をするよう訓練されている。つまり、彼らは訓練を受け入れるように訓練されているわけだ。そのため今後は、Plotnikらの言う「相手ありきの手の込んだ協力行動に向かって十分に発達した性向」と、「もっと一般的なすばやい学習の性向」とを区別する必要があるだろう。例えば、青信号のような非社会的な合図を待つという行動を、ゾウがどのくらい容易に学習できるかを見るようなテストである。

そうは言うものの、ゾウとチンパンジーは同じくらい容易に「待つ」ことを学習した。では、両者の協力行動スキルに優劣はないとするPlotnikらの主張は正しいのだろうか。チンパンジーでは、有利な状況の認知を学習するだけでなく、自分の相手を確保することで協力行動の機会を作り出すという重要な知見が得られている。しかし、ゾウではまだ調べられていない。

1930年代に報告されたCrawfordの論文5では、バナナを与え過ぎたために実験課題に無関心になってしまった1頭の雌チンパンジーに対して、相手のチンパンジーはその手を引っ張るなどして、彼女を課題に参加させようとしたという。さらに最近のある研究2では、1頭のチンパンジーが、ほかのチンパンジーではなく実験を行っている人間を誘って、装置の所まで連れていこうとしたことが報告された。また別の研究3では、待つことを教え込んだチンパンジーに、協力者が必要な場合には別の1頭が入っている檻の「かんぬき」を外すという課題を行わせたところ、これをちゃんとやってのけたという。チンパンジーは、仲間がロープの近くに来るまで待つことを学習していただけでなく、その相手の因果的役割(causal role)を把握していたのだ。すなわち、目的を達成するためにはパートナーが必要であると理解していたということである。このように、1つの状況で学習した知識を新しい行動にすぐに反映させて実行できるかどうかを見ることは、認知能力の柔軟性を評価するのに有効なテストの1つといえそうだ。

チンパンジーは、集団においてお互いを社会的道具として利用できることを十分に理解しているようである。しかし、ゾウが同様の理解を持っていることを示す証拠は今のところない。ただしこれは、ゾウのコミュニケーションが、観察者であるヒトにとってかなり異質なものであることが原因かもしれない。Plotnikらは、ゾウの低音域の鳴き声や位置を示す微妙な合図を解読するには時間がかかることを強調しているからだ。別の新しい研究6では、雄ライオンのうなり声が聞こえると、成熟した雌ゾウたちは仲間のゾウたちを先導して仔ゾウを取り囲む行動をとるが、若い雌ゾウたちではそうした行動が見られないことを報告している。残念ながらこの研究チームは、ゾウたちがどうやって仲間どうしで防御の姿勢を協調させているのかを見抜くところまではいかなかった。

今回のPlotnikらの研究成果1によって、さまざまな動物の協力行動に関するわれわれの認識は広がったといえる。世界最大の陸上動物を対象にした実験は、文字どおり「マンモスな研究」だったが、研究チームは、ほかの動物種、特に霊長類で使われる実験手法を流用することで、動物間の直接的な比較を可能にしたわけだ。協力行動のための知能が、進化によってどのように形作られるのかを解明するためには、今後、異なる社会システムを持つ近縁な動物種について比較研究する必要があるだろう。「他者の行動に合わせる性向」は、もっと広くとらえれば、社会的生活への適応の一種だともいえるし、これには大きな脳は必要ないのかもしれない。脳が小さい魚類であっても、中には、協力して餌を捕獲するものもいるからだ7。大小さまざまな動物について研究を進めていけば、ヒトを含めた動物が、どうやってお互いに理解し協力し合っているのかを知る手がかりが得られることだろう。

(翻訳:船田晶子)

Amanda M. Seed、セントアンドリュース大学心理学部(英国)。

Keith Jensen、ロンドン大学クイーンメアリー校心理学研究センター(英国)。

参考文献

  1. Plotnik, J. M., Lair, R., Suphachoksahakun, W. & de Waal, F. B. M. Proc. Natl Acad. Sci. USA 108, 5116–5121 (2011).
  2. Hirata, S. & Fuwa, K. Primates 48, 13–21 (2007).
  3. Melis, A. P., Hare, B. & Tomasello, M. Science 311, 1297–1300 (2006).
  4. Seed, A. M., Clayton, N. S. & Emery, N. J. Proc. R. Soc. B 275, 1421–1429 (2008).
  5. Crawford, M. P. Comp. Psychol. Monogr. 14, 1–88 (1937).
  6. McComb, K. et al. Proc. R. Soc. B doi:10.1098/ rspb.2011.0168 (2011).
  7. Bshary, R., Hohner, A., Ait-el-Djoudi, K. & Fricke, H. PLoS Biol. 4, e431 (2006).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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