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ランタノイド発光材料を電流で励起する

おそらく、あなたは今まさに何らかの光学デバイスを使っていることだろう。それが頭上の照明であれ、ノートパソコンやスマートフォンのスクリーンであれ、現代の光源の多くは、電気エネルギーを光子に変換する発光ダイオード(LED)技術に基づいている。だが、より濃く鮮明な発色、カラーパレットの拡充、長寿命化、製造の合理化といったLEDの改良は、従来の材料では達成が困難である。このたび、黒竜江大学(中国)のJing Tanら1とケンブリッジ大学(英国)のZhongzheng Yuら2はそれぞれ、ランタノイドイオンを含有する絶縁体ナノ粒子を用いてこうした課題に対処する同様の戦略を開発し、Nature 2025年11月20日号の632ページと625ページで報告した。ランタノイドとは、周期表で原子番号57のランタン(La)から71のルテチウム(Lu)までの15の元素の総称である。

ランタノイドイオンを含有するナノ粒子は優れた発光材料だが、それらを電流で励起するのはこれまで困難であった3。2つの研究チームは今回、ランタノイドイオンに有機分子を結合させることでこの問題を解決した。この材料を用いたLEDデバイスは、色純度の高いさまざまな発光を示し、これによって革新的なフォトニクス技術への道が開かれた。

従来のLEDは半導体でできており、通常はシリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)などの無機固体材料が使われているが、代替材料として発光性有機分子や量子ドットを用いたLEDも開発されている。

こうした光源は至る所に存在するものの、既存のLED材料にはいくつかの問題があった。その1つは光安定性で、量子ドットや発光性有機分子は、明滅(ランダムに明るくなったり暗くなったりする現象)や光退色(太陽光で色あせたポスターのように、発光や吸光の能力が永続的に失われる現象)を起こしやすい傾向がある。

他に、従来の有色LEDでは発する光の波長(色)の範囲が広過ぎるという問題もある。これは有機LED(OLED)で特に顕著で、鮮明さ(色の強度)が損なわれてしまう。

さらに、既存の多色照明やカラーディスプレイは、製造の容易さと性能の間で設計上のトレードオフに直面している。大半のLEDは、それぞれが単色を発する層を複数重ねて作られており、それらを一体化するのに手間とコストがかかる。これに代わる方法として、単一層で複数の色を発することのできるデバイスも設計可能4だが、作製が容易になる一方で、性能が犠牲になる。

その点、ランタノイドドープ絶縁体ナノ粒子(LnNP)は、これら全ての面で利点をもたらす。LnNPが発する光は鮮明で色純度が高く、ランタノイド元素の種類の多さは、幅広い色が得られることを意味する。また、LnNPの単一発光層に複数の色を統合できる方法も提案されており5、LnNPは並外れて優れた光安定性を示すことでも知られる6,7。しかし残念なことに、これらの有益な光学特性の実現に必要な不活性ホスト材料は、ランタノイドイオンを外部の電気接点から隔離してしまうため、LnNPを用いたLED(LnLED)の開発はこれまで阻まれていた。今回TanらとYuらは、精密に設計された有機分子をLnNPと一体化することによって、電流で励起されるLnNPデバイスを構築することに初めて成功した。

これらのハイブリッドナノ構造では、電流によって有機分子を励起し、そのエネルギーをランタノイドイオンに移動させることができる

OLEDにおける発光は、電流によって高エネルギー状態に励起された発光分子が、低エネルギー状態に戻る際に光子を放出することで生じる。だが、励起状態にある分子の近くに別の分子や原子、イオンが存在する場合、励起分子が光を放射せずに「ドナー」として働いて、「アクセプター」となる近傍の分子や原子、イオンにエネルギーを移動させることがある。これは「無放射過程」として知られ、アクセプターはその後、受け取ったエネルギーを光として放出することが可能だ。

特定の分子や原子、イオンは、明確に規定されたエネルギー遷移のみを示し、無放射過程が起こるには、ドナーとアクセプターのエネルギー遷移の間に重なりがなければならない。TanらとYuらの今回の研究で極めて重要だったのは、発光分子のエネルギー遷移とランタノイドイオンのエネルギー遷移をマッチさせられるという認識だった。

2つの研究グループは、それぞれ異なる手法を検討し、発光性有機分子をLnNPの表面に結合させてハイブリッドナノ構造を作り上げた。これらの構造では、電流の印加によって有機分子を励起し、そのエネルギーをランタノイドイオンに移動させることができる。研究者らは、これらの有機分子–LnNPハイブリッドの薄層を発光部に用いてLEDを作製した(図1)。有機分子の部分はOLEDに適合するため、十分に確立されたOLEDの設計を用いて、高効率のLnNPエレクトロルミネッセンスを生み出すことができた。

図1 ランタノイドドープ絶縁体ナノ粒子に基づくLED
ランタノイドイオンが埋め込まれた絶縁体ナノ粒子は、優れた発光材料である。今回Tanら1とYuら2はそれぞれ、ランタノイドドープ絶縁体ナノ粒子(LnNP)を用いた発光ダイオード(LED)を開発した。ランタノイドとは、周期表で原子番号57のランタン(La)から71のルテチウム(Lu)までの15の元素の総称である。LEDは電気エネルギーを光子に変換するが、LnNPは絶縁体材料でできているため、電流で励起するのはこれまで困難であった。2つの研究グループは、発光性有機分子をナノ粒子の表面に結合させてハイブリッドナノ構造を作ることで、この問題に対処した。有機分子は電流によって励起でき、そのエネルギーがランタノイドイオンに移動すると、ランタノイドイオンは優れた色純度の光子を放出することができる。研究者らは、こうした有機分子–LnNPハイブリッドの薄層を用いて、電圧を印加すると有機分子の電流励起を介してランタノイドイオンが発光するLEDを構築した(参考文献2の図1より改変)。

こうしたデバイスが実現できたのは、有機色素を用いて修飾(増感)したLnNPに関する過去の研究があったからである。この研究では、発光分子とLnNPの間のエネルギー移動が主に、直接光を吸収する分子の「明」状態ではなく、光は吸収できないが電流で直接励起できる「暗」状態を通して起こることが示された8。こうした分子の「暗」状態からランタノイドイオンへのエネルギー移動は、99%を超えるほぼ完璧な効率で実現可能である9

Tanらは、ナノ粒子に含まれるランタノイドイオンの種類や濃度が違っても、デバイス構成を変えずにそれらを交換したり組み合わせたりできる有機分子–LnNPハイブリッドを作製し、可視スペクトル全域に及ぶ波長の光を放出するLnLEDを得た。Tanらはまた、彼らが設計した有機分子がLnNP表面でのエネルギー損失を軽減できることも示している。

一方でYuらは、LnLEDの発光を短波赤外(SWIR)領域(波長約1000~2000 nm)まで拡張させた。この波長領域は、生物学的応用、産業や農業における検査工程、光検出・測距(ライダー)を用いるシステムにとって大変興味深い。SWIR領域における分子の発光は効率が悪いことで有名なため、新しい発光デバイスが非常に必要とされている。Yuらは、彼らが開発したSWIR LnLEDデバイスの色純度が、従来のこの波長領域での代替技術である量子ドットLEDで達成可能なものよりも優れていることを示した。

LEDは、照明やスマートフォンのスクリーンなど、身の回りにあるさまざまな機器で使われている。 Credit: Mamigibbs/Moment/Getty

電流励起LnNPはさまざまな照明技術の可能性を開くが、まだ克服すべき課題はある。LnNP自体の光安定性は優れているが、有機分子の酸化傾向に起因して、有機分子–LnNPハイブリッドはそれほど安定ではない場合があるのだ8。しかし、TanらとYuらは今回、デバイスを封止することでこの問題に対処した。これは、OLED技術において、酸化による劣化を防止するために広く用いられている手法である。

輝度もまた、懸念事項だ。ランタノイドイオンは、励起後に光子を放出するのに時間がかかる。これは、LnLEDが1秒当たりに放出する光子の数が従来のLEDよりも少ないことを意味する。この問題は、LnLEDをメタ表面などの精巧なフォトニック構造と連結させて、別の光子放出チャネルを提供することで解決できるかもしれない。

おそらく、最も重要な課題は効率だろう。今回TanらとYuらが実証した効率は既に、SWIR OLEDなどの一部のニッチなLEDデバイスのものに匹敵するが、広範な使用を可能にするにはさらなる改良が必要である。これについては、ペロブスカイトLEDの開発に類似点を見いだすことができる。ペロブスカイトLEDのエネルギー変換効率は、最初のデバイスではわずか0.1%だった10が、10年もたたないうちに30%近くまで向上した11

LnNPを用いた超小型レーザーの開発にも、大きな機会が見込まれる。LnNPレーザーは、市販されている従来の半導体レーザーの100分の1という低い入力パワーでレーザー光を放出できるからだ12。しかし、こうしたレーザーは電気ではなく光でしか励起できないため、用途が限られていた。今回のTanらとYuらの研究によって、こうした小型レーザーが、次世代通信や個別化医療などの応用を目的としたチップスケールの回路で使用できるようになるだろう。さらに、電流による励起は、ランタノイドイオンからの高輝度光バーストを用いる小型量子光源の発明を可能にするかもしれない13,14。将来の研究が、いかに今回のTanらとYuらの偉業を足掛かりにして、光学技術にそうした飛躍をもたらすかを見るのが実に楽しみだ。

研究者らが、こうしたハイブリッド材料とそれを用いたデバイスの改良という課題に進んで取り組むなら、LnLED開発の急速な進展は確実に可能だろう。もしかすると、照明技術やディスプレイ技術の進歩というのは、LnNPが持つ膨大な可能性のほんの一部に過ぎないのかもしれない。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2026.260246

原文

Lanthanides go electric: promising light emitters used in LEDs
  • Nature (2025-11-20) | DOI: 10.1038/d41586-025-03586-4
  • P. James Schuck
  • コロンビア大学(米国ニューヨーク)に所属

参考文献

  1. Tan, J. et al. Nature 647, 632–638 (2025).
  2. Yu, Z. et al. Nature 647, 625–631 (2025).
  3. Zhou, B., Shi, B., Jin, D. & Liu, X. Nature Nanotechnol. 10, 924–936 (2015).
  4. Xiang, H., Wang, R., Chen, J., Li, F. & Zeng, H. Light Sci. Appl. 10, 206 (2021).
  5. Mahalingam, V. et al. J. Phys. Chem. C 112, 17745–17749 (2008).
  6. Park, Y. I. et al. Adv. Mater. 21, 4467–4471 (2009).
  7. Wu, S. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 106, 10917–10921 (2009).
  8. Garfield, D. J. et al. Nature Photon. 12, 402–407 (2018).
  9. Han, S. et al. Nature 587, 594–599 (2020).
  10. Tan, Z.-K. et al. Nature Nanotechnol. 9, 687–692 (2014).
  11. Kim, J. S. et al. Nature 611, 688–694 (2022).
  12. Fernandez-Bravo, A. et al. Nature Mater. 18, 1172–1176 (2019).
  13. Huang, K. et al. Nature Photon. 16, 737–742 (2022).
  14. Zhou, M. et al. Nature Commun. 15, 9880 (2024).