Editorial

NatureはRegistered Reportsを歓迎します

Registered Reports(査読付き事前登録研究論文)とは、研究課題とそれに対処するための研究方法が記された論文であり、この研究計画が査読を通過した場合には、当該学術誌での掲載が確約されます。 Credit: Fabrique Imagique/iStock/Getty

2023年は、Natureが全ての投稿論文に査読を義務付けることを決定してから50周年に当たります。この節目の年にふさわしい新しい研究論文の形式「Registered Reports(査読付き事前登録研究論文)」を、読者と論文著者の皆さまにご紹介いたします。Registered Reportsは、「1つの仮説の正当性を検証するための研究」を報告するための論文形式で、Natureでは2023年2月に掲載を開始しました(go.nature.com/3kivjh1)。

研究課題とそれに取り組むために選択された方法が査読を通過した場合、学術論文誌は、その研究に関する論文の出版を確約し、研究の結果自体は二の次とするというのが、Registered Reportsを支える基本原則です(2021年8月号「優れた研究は論文執筆のかなり前から始まっている」参照)。現在のところ、Natureは認知神経科学、行動科学と社会科学の分野でRegistered Reportsを受け付けています。将来的には対象分野を広げ、また研究のタイプについても、探索的な意味合いの強い研究などに広げる予定です。

Registered Reportsを導入する理由の1つは、出版バイアスへの対処です。出版バイアスとは、編集者や査読者、著者は否定的な研究結果よりも肯定的な結果の出版を好むという、研究システムに見られる傾向のことです。Registered Reportsは、結果を問わず研究を奨励するために役立ちます。エレガントでロバスト(堅牢)な研究は、その方法についても、結果と同程度の評価を受けるべきなのです。

Registered Reportsの投稿

Registered Reportsが掲載されるまでの手順は、次の通りです。この論文の著者は、研究に着手する前に、研究計画を提出して投稿前照会(pre-submission enquiry)を行うことが求められます(2019年10月号「研究のプロセスも高く評価する論文形式」参照)。通常、この研究計画には、①研究課題、②その研究がRegistered Reportsの形式に適合している理由、③研究に使用される方法とデータの収集方法の簡単な説明を記載する必要があります。また研究課題は、科学的影響と裏付け証拠の強さに関するNatureの現行の編集基準を満たす必要があります。これらの編集基準が満たされた場合、この研究計画は査読に送られます。査読者は、その研究課題が1つの研究分野またはそれより広範囲(例えば経済や環境や社会)にわたって重要かどうかという観点で、研究計画の採否を判断します。また、研究デザインと研究における分析のロバスト性も評価されます。査読者から採択の了承が得られた研究計画は、研究の過程で方法が変更されない限り、当該学術誌での出版が確約されます。

エレガントでロバストな研究は、その方法についても、結果と同程度の評価を受けるべきだ

なお、ここで明確にしておきたいのは、Registered Reportsは新しい論文形式ではない、ということです。少なくとも2012年ごろから存在していました1。Nature Portfolioの学術誌では、Nature Human BehaviourNature MethodsNature CommunicationsScientific Reportsなどのように、この論文形式で投稿ができるものが一定数あります。Center for Open Scienceによると、この論文形式を受け付けている論文誌は2019年には約200誌でしたが、今では既に300誌を超えているそうです(go.nature.com/3xhimm6参照)。このようにRegistered Reportsはしばらく前から存在しているのですが、研究者の間ではまだ広く知られておらず、広く理解されてもいません。この現状を変えなければなりません。Natureは、この現状を変えるための役割を果たしたいのです。

Registered Reportsが認識されていない理由の1つは、従来の形式の研究論文が有利になる構造的要因の存在です。結果に重点を置いた研究は有益、つまり、昇進や助成金申請に関する評価の材料となるわけです。研究機関にとっても、資金を獲得する際などに利用できるために重要なのです。

Registered Reportsの効用を強調する努力を積み重ねる必要があることは明白です。この論文形式は、研究デザインと研究手法に厳密性が必要なことを裏付けるのに役立つと同時に、フィードバックの機会を提供するようにできています。この2つの特徴は、研究者が研究に内在する問題点を修正可能な時点で発見して修正するのに役立ちます。Registered Reportsは、品質を示すマーカーとなりつつあり、同僚の研究者や研究機関、研究助成団体は、この論文形式が研究の水準の高さを示すことに気付き始めています2。この論文形式によって、査読過程はより建設的で友好的なものにできるのです。

共同研究につながる可能性

Registered Reports(とその他の論文形式)は、研究分野内での意見の対立を解消する際にも、助けになるかもしれません。例えば、心理学の研究者の間では、個々人の情動の主観的体験が本人の顔の表情に影響されるとした仮説を巡って意見の対立があります。この点で見解の異なる研究者が、Registered Reportsの論文形式を活用して、この仮説を検証する共同研究を行いました。この研究で得られた知見を報告する論文3が、2022年10月に出版されました。

今から10年前、Natureは、論文著者のためにreporting summary(研究報告要約)というフォームを作成しました。これは、チェックリストの一種で、例えば、実験から得られた知見が再現されたかどうか、サンプルサイズは適切かなどの項目について、論文著者に回答を求めるものです。Registered Reportsは、厳密性と研究デザインをさらに重視する方向への進歩です。そして、科学研究がどのように実施されたかを認識し、優れた研究は論文が書かれるよりもずっと前に始まることを認識している論文形式なのです。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230505

原文

Nature welcomes Registered Reports
  • Nature (2023-02-22) | DOI: 10.1038/d41586-023-00506-2

参考文献

  1. Chambers, C. D. & Tzavella, L. Nature Hum. Behav. 6, 29–42 (2022).
  2. Soderberg, C. K. et al. Nature Hum. Behav. 5, 990–997 (2021).
  3. Coles, N. A. et al. Nature Hum. Behav. 6, 1731–1742 (2022).