Editorial

研究のプロセスも高く評価する論文形式

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191041

原文:Nature (2019-07-23) | doi: 10.1038/d41586-019-02277-1 | An innovative way to publish

研究コミュニティーでは、研究のデザインと方法論が最終結果と同じように報われなければならない。この課題に取り組む手段の1つが、Registered Reports(査読付き事前登録研究論文)という形式の出版物だ。

学術誌で発表したいと考えている研究課題と共に、研究のデザインと方法論を記述した「プロトコル」と解析計画をあらかじめ提出し、査読を受けることで、計画を改善したり、出版バイアスを減らすことができる。 | 拡大する

Thomas Barwick/DigitalVision/getty

心理学の研究論文100編について、論文に示された結果を再現しようという試みが2015年に行われたが、再現できたのは全体の3分の1を少し超える程度にとどまり、心理学界に動揺が走った。

こうした発見は心理学に限ったことではない。影響力のある結果を再現できないことは、さまざまな研究分野で報告されており、特に前臨床がん研究、行動社会科学、実験経済学が目立つ。

その理由の1つが出版バイアスである。学術誌の編集者、査読者、論文著者は、否定的な知見よりも肯定的な結果(時には人目を引く結果であったりもする)を好むことがあるのだ。しかし、否定的な結果も出版されて研究者コミュニティーに知れ渡るようにならなければ、研究助成金も研究者が費やした時間も無駄になり、臨床研究の場合には、患者の参加が実を結ばずに終わることもある。ある試算によれば、生物医科学研究への投資の最大85%が、論文出版がなされなかった研究、実施する必要のなかった研究、あるいは研究デザインの不十分な研究が原因で無駄になったとされる。

こうした問題を抱える分野の研究者と研究助成機関は、問題に対処するためにさまざまな方策を講じている。その中で解決法として頭角を現してきたのが、Registered Reports(査読付き事前登録研究論文)という形式の出版物で、一部の学術誌が採用に力を入れている。その1つが、Nature Research発行のNature Human Behaviour で、2編の論文が同誌では初めてのRegistered Reportsとして2019年7月22日にオンライン掲載された。

Registered Reportsの革新性は、査読と掲載決定が、データの収集と解析に先立って行われる点にある。研究者は、学術誌で発表する研究プロジェクトについて、実質的には詳細計画に当たるプロトコルを提出する。プロトコルには、研究のデザインと方法論が記述され、詳細な解析計画と共に研究課題が示される。

次に、学術誌の編集者は、提案されたプロトコルが査読に値するかどうかを決定するが、その決定は、研究結果の潜在的新規性ではなく、研究課題の重要性に基づいて行われる。そして、この研究が方法論的にロバストであることに査読者が納得すれば、その研究が完成した時にどのような最終結果になろうと、結果を報告する論文を学術誌に掲載することが約束される。

結果が明らかになる前に論文の掲載を約束することにより、出版バイアスが発生する可能性を減らすことができる。それに、研究者がデータ収集を始める前に査読者から建設的なコメントを受ければ、研究の質が向上する。とりわけ重要なのは、研究デザインを修正することが可能な時間的余裕がある間に、デザインの潜在的問題点を特定し、対処できることだ。

Nature Human Behaviour に掲載されたRegistered Reportsの1つは、人生やキャリア、人間関係において満足度が高いのは自分の能力を正確に判断した人の方なのか、という長年にわたる疑問に答えている(J. C. He and S. Côté Nature Hum. Behav. https://doi.org/c8pr; 2019)。論文著者は、過去の文献で広まっていた5つの仮説はいずれも裏付けられなかったと自信を持って結論付けている。これは、否定的な結果であるが、この研究分野にとっては、積極的な前進だ。

現在、多岐の分野にわたる約200の学術誌がRegistered Reportsを受理する。しかし、Registered Reportsは、明確に定義された仮説や解析計画のない研究にはそれほど適しておらず、探索的な科学研究にぴたりとはまることは稀だ。そうは言っても、研究デザインを重視する必要のある生命科学や社会科学などの分野でRegistered Reportsを認める学術誌が増えれば、その受け入れは加速するかもしれない。

Registered Reportsは、研究助成機関にとっても有益である。助成金の交付対象となる研究に望まれるのは、きちんと設計され、ロバストで、未解決の重要課題に取り組むことだからだ。小児腫瘍財団と英国ロンドンがん研究所とファイザー社(米国ニューヨーク州)は、これまでにRegistered Reportsに関してさまざまな学術誌と連携している。また、テンプルトン・ワールド・チャリティー財団は、その資金調達イニシアチブの1つ以上で、Registered Reports形式で研究成果を提出することを求めている。一方で、そのように取り決める場合は、学術誌の編集者や出版社が研究助成機関から独立して決定を下す権限を維持することが絶対に必要だ。

研究において、プロセスは最終結果と同様に重要だ。だからこそ、より多くの学術誌がRegistered Reports形式を検討すべきであり、これが、全ての分野における研究活動の公正性を維持するために役立っている出版物の形式であることを、より多くの研究助成機関が助成金申請者に知らせるべきだ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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