ハエは磁気を感知するのか
地球の磁場は、極めて安定したコンパスとして情報を提供している。多くの陸上・水中動物が磁場の情報をナビゲーションや方向感覚に用いており1、磁場を感知する生物種は着実に見つかりつつある。そうした生物の中で、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster:図1)は、50年以上前に初めて磁場を感知すると示唆され2、2008年の画期的な研究で再び注目を浴びるようになった3。研究者たちはこれらの発見に胸を躍らせた。というのも、ショウジョウバエは非常に小さくて実験で使いやすい神経系を持ち、遺伝子組み換えに利用できるツールのまさに宝庫であるので、捉えにくい磁気感覚の生理学的基盤をようやく解明できる可能性が出てきたからだった。しかし今回、カール・フォン・オシエツキー大学オルデンブルク(ドイツ)のThomas Reichlと同大学およびオックスフォード大学(英国)のMarco Bassettoら4はNature 2023年8月17日号595ページで、約11万匹のショウジョウバエを用いて信じられないほど厳密な実験を行い、ショウジョウバエが磁気感覚を持つことに疑問を投げ掛けている。彼らは、数百匹のハエを調べた2008年の画期的な研究3も、2014年の重要な転換点となった研究5も、結果を再現できなかったことを示したのである。
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翻訳:古川奈々子
Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 11
DOI: 10.1038/ndigest.2023.231146
原文
Replication study casts doubt on magnetic sensing in flies- Nature (2023-08-17) | DOI: 10.1038/d41586-023-02489-6
- Eric J. Warrant
- ルンド大学(スウェーデン)に所属。
参考文献
- Mouritsen, H. Nature 558, 50–59 (2018).
- Wehner, R. & Labhart, Th. Experientia 26, 967–968 (1970).
- Gegear, R. J., Casselman, A., Waddell, S. & Reppert, S. M. Nature 454, 1014–1018 (2008).
- Bassetto, M. et al. Nature 620, 595–599 (2023).
- Fedele, G., Green, E. W., Rosato, E. & Kyriacou, C. P. Nature Commun. 5, 4391 (2014).
- Johnsen, S., Lohmann, K. J. & Warrant, E. J. J. Exp. Biol. 223, jeb164921 (2020).
- Dreyer, D. et al. Curr. Biol. 28, 2160–2166 (2018).
- Engels, S. et al. Nature 509, 353–356 (2014).
- Meister, M. eLife 5, e17210 (2016).
- Malkemper, E. P. et al. Commun. Biol. 6, 242 (2023).
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