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半導体産業発展の功労者、感染症モデル改革者、タブラー奏者に京都賞

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220824

2022年の京都賞は、VLSIを中心とする半導体産業の発展に貢献したミード氏、感染症モデル研究を革新したグレンフェル氏、タブラー奏者のフセイン氏に贈られる。

左からカーバー・ミード氏、ブライアン・グレンフェル氏、ザーキル・フセイン氏。 | 拡大する

公益財団法人 稲盛財団

2022年6月17日、稲盛財団は京都賞を発表した。エレクトロニクス分野(先端技術部門)は、大規模集積回路の指導原理の構築に貢献した米国の電子工学者・応用物理学者カーバー・ミード氏(Carver Mead)。生物科学分野(基礎科学部門)は、ウイルス感染症数理モデルにウイルス進化の視点を融合した米国の集団生物学者ブライアン・グレンフェル氏(Bryan Grenfell)。音楽分野(思想・芸術部門)は、インドの伝統打楽器タブラー奏者で世界の音楽に影響を与えたザーキル・フセイン氏(Zakir Hussain)に贈られる。なお賞金は1賞につき1億円。

集積回路の高集積化が進み、著しい複雑化が予測されていた1970年代後半。カーバー・ミード氏は当時からこの問題に取り組み、大規模集積回路(VLSI)の製造工程からレイアウト設計、論理設計、回路設計を切り離す方法を開発。これにより、複雑な製造工程を意識せずに集積回路設計を行うことが可能になった。1980年、この方法論をまとめた「Introduction to VLSI Systems」(『超LSIシステム入門』培風館、1981年)を、米国の計算機科学者リン・コンウェイ(Lynn Conway)氏と共著で出版。この書籍は、ミード氏が教鞭を執っていたカリフォルニア工科大学から業界まで大きな影響を与え、ミード氏の方法は瞬く間にVLSI設計・製造の標準的な手法となった。また、各設計過程を自動化するCAD(コンピューター支援設計)技術の確立にもつながった。ミード氏の貢献なくして現代の半導体産業は成立し得なかったと評価された。

集団生物学者であるブライアン・グレンフェル氏は、野生動物の感染症動態のほか、ヒトのウイルス感染症でも数理モデル研究を行ってきた。そして2004年には、これまでの感染症数理モデルにウイルスの系統発生(phylogeny)、つまりウイルス進化という新たな視点を組み込んだ「ファイロダイナミクス(Phylodynamics)」を提案。感染症の流行動態および感染者の免疫系がウイルスの進化に影響を与え、またウイルスの進化は感染症動態に影響を与えることをモデルに取り入れた。2021年には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して、既存のmRNAワクチン3種の2回目接種時期を検討。その研究で彼は、単回接種により短期的にはCOVID-19患者が減るが、免疫が十分得られていない単回接種者においてウイルスの適応進化が大幅に起こりやすくなる(変異株が現れやすい)ことを見いだした。従って、より多くの人に1回目のワクチン接種を行った後、ワクチンの供給が十分に増えた段階でメーカーが推奨する間隔の2回接種に切り替えることで、ウイルスの適応進化のリスクを軽減できると結論している。

ザーキル・フセイン氏は、同じくタブラー奏者であった父の演奏活動に同行し、幼い頃から演奏活動を行っていた。その演奏技術とパフォーマンス、そして、世界中の音楽家とのジャンルを横断した活動により、インドの古典音楽に新たな広がりをもたらした「革新的創造力」が評価された。

京都賞は、京セラ株式会社の創業者、稲盛和夫氏が設立した公益財団法人 稲盛財団により1984年に創設された。「単なる発明・発見だけでなく、道を究めるために人一倍の努力をし、その業績が長く人類・社会に多大な貢献をもたらした点を審査し顕彰する」との考えに基づく。

(編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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