Advances

幻の指

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220623a

6本目の指を生む異様な錯覚。

実験で、被験者は、見えない6 番目の指が左手小指の外側にあるという感覚を持つようになった。 | 拡大する

LOLOSTOCK/ISTOCK/GETTY

脳にはその人の体についての地図があり、特定の身体部位の知覚や制御を専門とするニューロンが存在する。だが近年の研究によると、この表象には変更の余地がかなりあるらしい。2016年のある実験では、片方の手に6番目の指があるかのような感覚をしばし被験者に生じさせるのに成功した(ある被験者は驚いて「魔法だ!」と声を上げた)。2020年には別の研究チームが、この感覚を延長してずっと続くようにした。後者のチームは、Cognition に掲載された最新の研究でさらに踏み込み、被験者に6番目の指があるように感じさせただけでなく、その見えない幻の指について被験者が感じる長さを制御して変えてみせた。

この錯覚を生じさせるにはまず、被験者に両手をテーブルの上に置いてもらい、その間に鏡を衝立のように立てて、鏡に映った右手の像が被験者から見て本来なら左手が見えるはずの場所に一致するように位置を合わせる。実験者は被験者の左右の同じ指の上部を付け根から指先、指先から付け根へと同時になでる2往復の動作を、親指から始めて順に行っていく。小指の番では、右手の小指は従来通り指の上部をなで、左手小指については内側をなでる。

そして最後に、右手小指のすぐそばのテーブル面を同様になでると同時に左手小指の外側をなでる動作を20往復行った。被験者は鏡に映った像から左手小指の外側のテーブルがさすられているように見えるが、実際の触覚では左手小指の外側にそれを感じている。この結果、被験者は見えない6番目の指が左手にあるとの感覚を自己報告するようになった。

「これは正直かなり薄気味悪いものです」とロンドン大学バークベックカレッジ(英国)で神経科学を専攻する大学院生で、論文の筆頭著者であるDenise Cadeteは言う。「何が行われているのか被験者も全て把握しているのに、この錯覚が生じて消えません。非常に鮮明で驚くべき感覚です」。

指の長さを変える

Cadeteのチームは最新の研究で、テーブル面をなでる長さを標準的な小指の半分あるいは2倍にして実験した。その後、左手に新たに生じた指の長さがどのくらいに感じられるかを、20人の右利きの被験者にノギスで示してもらったところ、なでる長さを半分にした場合は実際の小指よりも平均で1.5cm短く、倍にした場合は同3cm長く感じると報告した。こうした違いは新たな指が単なる小指の複製としてではなく、独自の存在として知覚されていることをうかがわせる。

Cadeteはこの研究が人間の自己感覚に関する興味深い哲学的意味を含んでいるだけでなく、ロボット義肢を使っている人たちにも役立つだろうという。それらの機械式付属肢からの感覚を、こうした脳の錯覚を介して隣接の身体部位に伝達できる可能性があるという。Cadeteは、アーミーナイフのような複雑な義肢であっても可能だろうとみている。

生まれつき指が6本ある人の片手機能を研究しているロンドン大学インペリアル・カレッジ(英国)のロボット工学者Etienne Burdetは、この実験は見事だと評する。今後はこの現象が1本の小指以外にも当てはまるかどうかを探ることになるだろう。ロボット義肢を作る企業を自分が立ち上げるなら、「まずは義手から着手します」とBurdetは言う。

(翻訳協力:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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