Research Highlights

リサーチハイライト

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220602

「排出ガスを工業用原料に変える改変微生物」「塩味が花粉媒介者を引き寄せる」「マダガスカルの巨大鉱山が生物多様性オフセットに成功」「ヘビは獲物の締め付けと呼吸を分けている」「膵島の凍結保存手法から糖尿病の治癒を目指す」他(2022年3月3日〜3月31日号)。

トランジット系外惑星探査衛星(想像図)。 | 拡大する

NASA

科学者が二度見するほど大きな系外惑星

天文学者が、若い低質量星の周りを回る、生まれたばかりの巨大惑星を発見した。惑星は時間の経過とともに縮小し得るという説に根拠を与える発見である。

恒星TOI 1227の周りを回るこの惑星は、NASAのトランジット系外惑星探査衛星(TESS)を用いて発見された。発見したのは、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(米国)のAndrew Mannらの研究チーム。見つけた天体があまりにも大きかったため、研究チームは地上からも観測を行い、それが恒星ではなく惑星であることを確認したほどだった。

TOI 1227bと名付けられたこの惑星の半径は、太陽系の巨大ガス惑星である木星とほぼ等しいと、研究チームは推定している。低質量星は小さな惑星を持っていることが多く、今回の惑星は、これまでに低質量星の周りで観測された惑星の中では格段に大きい。研究チームは、時間の経過とともに減少するリチウムの量を調べることで、その主星であるTOI 1227が、星団を形成する周囲の恒星と共に1100万年前に生まれたばかりであることを確認した。

成熟した低質量星の周りにこのサイズの惑星が観測されたことは、これまでない。そのため天文学者たちは、TOI 1227bは初期の膨張した段階にあり、冷えて年を取るにつれて縮小するのではないかと考察している。

Astron. J. 163, 156 (2022).


排出ガスを工業用原料に変える改変微生物

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LANZATECH; MARTIN POOLE/GETTY

改変したクロストリジウム属の細菌を使って、二酸化炭素を含む排出ガスを、大きなスケールで価値ある化学物質に転換できることが報告された。

アセトンとイソプロパノールは工業用原料として広く利用されている。しかし、その製造には大量のエネルギーが必要で、約2倍の重量の温室効果ガスが発生してしまう。

ランザテック社(LanzaTech;米国イリノイ州スコーキー)のMichael Köpkeらは、燃料添加用のエタノールを自然に生産するクロストリジウム属の細菌クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)を利用した。科学者たちは過去にもこの細菌を利用して、一酸化炭素からかなりの量のエタノールを作ることに成功している。

同じクロストリジウム属の他の細菌は、アセトンやイソプロパノールなどの化合物の混合物を産生することができるため、研究チームはクロストリジウム属のゲノムを探索し、改変株にアセトンまたはイソプロパノールのみを作らせるのに利用できる酵素を探した。研究チームは、この改変微生物が、パイロットプラント(写真の施設)でアセトンまたはイソプロパノールを3週間にわたって連続的に産生できることを確認した。

研究チームは、このプロセスを使って1kgのアセトンまたはイソプロパノールを作ると、それぞれ1.78kgまたは1.17kgの二酸化炭素を消費できると見積もっている。

Nature Biotechnol. https://doi.org/hh2g (2022).


塩味が花粉媒介者を引き寄せる

ミツバチはしょっぱい花蜜を好むことが、花にナトリウム入り砂糖水を付ける実験から明らかにされた。

農業家たちの間では昔から、ウシやヒツジが岩塩のある場所に集まることが知られている。岩塩を舐めてナトリウムを摂取するためだ。ミシガン大学アナーバー校(米国)のNathan Sandersらは、ハチなどの花粉媒介者もナトリウムを見つけられるかどうかを調べるため、ニューイングランドの草原でよく見られる5種類の植物の花に、ナトリウム入りの人工花蜜を付け、その花を草原に置いてみた。

その結果、ナトリウムを加えていない花蜜を付けた花と比較すると、ナトリウム入りの花蜜を付けた花を花粉媒介者が訪れる回数は約2倍で、引き寄せた花粉媒介者の種類も2倍近いことが明らかになった。最も多く訪れたのはセイヨウミツバチやマルハナバチなどのミツバチで、ハエやチョウがそれに続いた。

この発見は、ナトリウムが花粉媒介昆虫を植物に引き寄せられることを示している。気候変動により水循環や植物が利用できるナトリウムの量が変化すると予想されていることから、研究チームは、気候変動が植物の個体数やその花を訪れる昆虫に悪影響を及ぼす可能性があると述べている。

Biol. Lett. 18, 20220016 (2022).


マダガスカルの巨大鉱山が生物多様性オフセットに成功

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SEBASTIEN DESBUREAUX

開発によって失われた自然と同等の自然価値を創出することで損失(ネットロス)を実質ゼロとする「ノーネットロス」。ある巨大ニッケル・コバルト鉱山がマダガスカルの森林において、この野心的な目標を達成しつつあることが、統計解析により明らかになった。

多くの政府は企業に対し、そのプロジェクトが引き起こす環境破壊を、他の場所の生物多様性を保全することで「オフセット(補償)」するよう要求している。バンガー大学(英国)のKatie Devenishらは、生物多様性オフセットという代償措置の有効性を調べるため、マダガスカル東部にあるアンバトビー鉱山のオフセットプログラムを、統計モデルを用いて調査した。この地域は生物多様性のホットスポットで、インドリ(写真)をはじめとする絶滅危惧種のキツネザルなど、さまざまな希少種が生息している。

鉱山関係者は、深刻な森林破壊が起きているマダガスカルの4カ所で森林の損失を抑制することで、鉱山開発に伴う2000ヘクタール以上の自然林の伐採を完全にオフセットすることを約束していた。研究チームの調査から、鉱山開発によって引き起こされた森林の損失の79%が2020年1月までにオフセットされ、2021年末までに森林のネットロスを回避できる見込みであることが分かった。

今回の発見は、生物多様性オフセットが産業開発による影響を抑制できることを示している。しかし研究チームは、マダガスカルのこのオフセットは多額の投資によって支えられているため、他のプロジェクトではこれほどうまくいかないかもしれないとも述べている。

Nature Sustain. https://doi.org/hkpv (2022).


人工のニューロンがハエトリグサの葉を閉じた

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P. C. HARIKESH ET AL./NATURE COMMUN

炭素系人工神経細胞を使ってハエトリグサの葉を閉じることに成功した。知能を備えたソフトロボットの改良につながることが期待される。

人工装具やウエアラブル電子機器などの技術の進歩には、脳にヒントを得たデバイスである「神経模倣システム」を生体組織に組み込むことが必要である。しかし、組み込みは容易ではない。神経模倣システムはシリコン系であることが多く、その剛性や回路の複雑さ、自然界のものとは根本的に異なる動作メカニズムなどが障害となってきた。

リンショーピン大学(スウェーデン・ノルショーピン)のSimone Fabianoらは、炭素系材料を用いて、こうした障害を克服した人工神経細胞を作製した。このデバイスは、シリコン系のデバイスよりも柔軟で、回路も比較的シンプルであり、生物の神経細胞と同様の機能を発揮する。研究チームは実証のため、このデバイスをハエトリグサ(写真)に組み込んだ。このハエトリグサに十分な大きさの電流を流すと、葉がパタッと閉じた。

研究チームが開発した人工神経細胞は広範な刺激に反応し、高い入力電圧を必要としないため、多くの用途に応用できる可能性がある。

Nature Commun. 13, 901 (2022).


ヘビは獲物の締め付けと呼吸を分けている

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Joe McDonald/The Image Bank/Getty

写真のボア・コンストリクター(Boa constrictor)というヘビは、呼吸の際に肋骨を動かして胸郭を広げたり縮めたりする。この呼吸法は、大きな獲物を締め付けて丸のみする彼らの摂食法とは相いれないように思われる。どちらの動きも、呼吸のための肋骨の動きを制限してしまうからである。科学者たちは今回、この謎を説明することに成功した。ボアは体の一部を呼吸に使い、別の部位を捕食に使うことで、捕食中も呼吸することができることが分かったのだ。

ブラウン大学(米国ロードアイランド州プロビデンス)のJohn Capanoらは、血圧測定用カフを使ってボアの体の一部を固定し、その骨の動きを観察した。ボアは、体の特定の部位をカフで固定されると、別の部位を動かして呼吸を始めた。

この結果は、ヘビにはなぜこれほど多くの種類があるのかという長年の謎の解明に役立つものだ。ヘビには、他の細長い脊椎動物の約10倍もの種類が知られている。研究チームは、ヘビが肺の一部だけを使って呼吸できるようになったことで、獲物に巻き付いてこれを締め付け、丸のみできるようになり、食べられる動物の種類が増えたとみている。そのおかげでヘビはさまざまな生息地で暮らせるようになり、多様化したと考えられるわけだ。

J. Exp. Biol. 225, jeb243119 (2022).


膵島の凍結保存手法から糖尿病の治癒を目指す

インスリンを作る細胞を凍結させる手法が、糖尿病の治癒を可能にするかもしれない。

膵島の細胞群のうち、ベータ細胞は、血糖値の調節に関与するインスリンというホルモンを作っている。膵島ベータ細胞を糖尿病患者に移植すると、血糖値を調節する能力が回復し、糖尿病が治る可能性がある。しかし、膵島ベータ細胞は数日以上保存することが難しいため、この実験的治療法の利用には限界がある。

ミネソタ大学(米国ミネアポリス)のErik Fingerらは、細胞が凍結する際にどれだけ収縮し、その後膨張するかを測定する装置を開発した。彼らはこの装置を用いて、膵島ベータ細胞を変形に伴う損傷から守りつつ凍結する手法を探した。

プロトコルを導き出した研究チームは、それに従って膵島ベータ細胞を凍結し、超低温で9カ月間保存した後に解凍したところ、そのほとんどが生きていた。そして、解凍した細胞塊を糖尿病マウスに移植したところ、92%のマウスの血糖値が2日以内に正常になった。この手法は、膵島ベータ細胞移植が広く普及するための道を開く可能性がある。

Nature Med. https://doi.org/hmct (2022).


朝型から夜型まで睡眠パターンは16種類ある

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Fotografía de eLuVe/Moment/GETTY

10万人以上の活動記録に基づく研究から16種類の睡眠パターンが明らかになった。睡眠障害が発生する仕組みに関するヒントも得られるかもしれない。

睡眠パターンの研究は厄介なことで知られる。実験室では、被験者が普段通りに眠ることが難しいためだ。東京大学の上田泰己らは、より自然な環境で睡眠を研究するため、研究用データベース「英国バイオバンク」にある10万3200人の睡眠中の活動データを分析した。このデータは、研究参加者が活動モニターを装着した状態で眠っている間に収集されたもので、延べ52万2826晩分の睡眠の持続時間と覚醒状態を捉えることができる。

研究チームはこのデータセットから、「ロングスリーパー」「夜型人間」「朝型人間」など16種類の睡眠パターンを特定した。中途覚醒後に入眠困難に陥るディープスリーパーや、中途覚醒を繰り返す人など、7種類の不眠症のプロファイルも見つかった。

研究チームは、今回の結果は睡眠障害の原因となる遺伝的・環境的要因の解明に役立つ可能性があり、精神疾患や神経変性疾患との関連なども明らかにできるのではないかと述べている。

Proc. Natl Acad. Sci. USA 119, e2116729119 (2022).

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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