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スマートセンサーを日常生活に織り込む

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220642

原文:Nature (2022-03-24) | doi: 10.1038/d41586-022-00691-6 | A smart sensor that can be woven into everyday life

Wenhui Song

感度と柔軟性を兼ね備えたハイブリッド設計によって、布地に編み込むことができる単繊維状の音響センサーが作られた。将来、健康や体力を管理するデバイスはウエアラブルになり、おそらく埋め込み可能にもなると思われる。

スマートウオッチやスマートフォンを装着して、フィットネスやトレーニング時の身体状況、その運動の効果をモニタリングしている人も多い。デバイスが衣服に組み込まれれば、装着者のストレスや行動制限が軽減される。 | 拡大する

kupicoo/E+/Getty

こんな未来を想像してみよう。あなたの衣服には、センサーや電子デバイスが組み込まれていて、生活様式や健康状態の改善に役立ってくれる1。この未来図は、機械的応力に応答して電気を発生させる圧電繊維を布地に織り込めば、現実になる可能性がある。いくつかの研究において、圧電材料を用いてウエアラブルデバイスを開発できる可能性が既に実証されている2が、これまでのところ圧電材料の特性によって性能が制限されている。今回、マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)のWei Yan(現在はシンガポールの南洋理工大学に所属)ら3は、柔軟かつ丈夫な音響センサーとして機能するハイブリッド圧電繊維を作製する革新的な方法をNature 2022年3月24日号616ページで報告し、音響センシングを新たな高みに押し上げた。

圧電材料は、機械的振動を加えると電気信号を発生させる性質があり、応力や圧力の測定に長く使われてきた。圧電材料には、無機化合物、有機化合物、ポリマーなどの種類がある。無機の圧電材料は、大抵、高い圧電性を示すものの、概して硬くてもろく、繊維状に成形することが困難である。それに対し、柔軟なポリマーは、繊維状に加工しやすく形状やサイズの調整が可能であるが、圧電性が低いことが多く、無機化合物の200分の1ほどである4–6

科学者や技術者は、無機粒子とポリマーを組み合わせ、それぞれの長所を生かして短所を克服する圧電性複合材料の開発を試みてきた。一部成功例はあるものの、こうしたハイブリッド材料の圧電性能は、依然として予想をかなり下回っている6,7。理想的な複合材料の特性は、「混合の法則」を用いて予測されることが多い。しかし、機能性ハイブリッド圧電材料の設計・開発においては、この法則が破綻するようであり、圧電性と、柔軟性・繊維加工可能性のどちらか一方が損なわれる。問題は、ポリマー中で無機粒子が均一に分布していても、ポリマーマトリックスと無機粒子の結合が強いため、柔軟性を維持しながら実用化できるほど圧電特性を大きく改善できないことである8。無機ナノ粒子の高い圧電性能は、絶縁性のポリマーマトリックスによってほぼ遮蔽されてしまうと考えられている6

ポリマーや複合材料でできた大半のフレキシブル音響センサーは、音響信号を電気出力に変換できるが、実際のウエアラブル電子デバイス向けとしては性能が限られている。最適な圧電特性を持つポリマー繊維を作る簡便かつ効果的な戦略の1つは、熱延伸と呼ばれる方法である。熱延伸工程では、軟らかくなるまで材料を加熱した後、一定の速度で引き伸ばして、均一直径の繊維に成形する。この方法は、Yanらと同じチームの研究者によって、2010年に開発された9。次のステップは分極処理という工程で、繊維に外部電場を複数サイクル印加し、材料の表面と内部に電気的に分極した安定ドメイン(電気双極子)を発生させる。

Yanら3は、丈夫で柔軟、かつ高い圧電性を持つ単繊維センサーを作製した。彼らはこれを布地に織り込んで、音声の受信や発信、心拍数のモニタリングなどができることを実証した。画像は、開発された圧電繊維とそれを織り込んだ布地を拡大したもの。 | 拡大する

Fink Lab MIT/Elizabeth Meiklejohn RISD/Greg Hren

延伸処理と分極処理の組み合わせは、形成された繊維の軸に沿って高分子鎖とその結晶構造を配向させるとともに、電気双極子を誘起する相乗効果を持つ可能性がある。結果として、機械的刺激に応答して電荷の流れが増大する。Yanらは、その点を考慮に入れて、圧電ポリマー単体を延伸する代わりに、熱延伸と段階的分極処理を組み合わせることによって多層デバイス全体を引き伸ばした。Yanらが作製した単繊維センサーは、チタン酸バリウム圧電ナノ粒子を分散させた高配向圧電ポリマー層を電極で挟み、その上からゴムで覆った構造を取っている。

このデバイスは、可聴音による刺激に対して非常に感度が高いことが示された。デバイスの圧電係数(応力に応答して発生した単位面積当たりの電荷)は、ポリマー材料自体の2倍である。Yanらは、この高い圧電係数を、配向ポリマー鎖に沿って高分散チタン酸バリウムナノ粒子を取り囲むように形成された、微小細孔に起因するものと考えた(図1)。電気双極子は、ナノ粒子や細長い細孔とポリマーマトリックスとの界面に誘起される。Yanらは、この双極子数の増加が、音響振動によって生じる自発的電荷の増加につながると推測した。

図1 高い感度と柔軟性を併せ持つ単繊維センサー
圧電材料は、機械的振動に応答して電気信号を発生させるため、センサーの構築に利用できる。Yanら3は、高い圧電性を持つフレキシブルな繊維センサーを作製した。このセンサーは、チタン酸バリウムナノ粒子が埋め込まれた高配向ポリマーマトリックスが、2枚の電極に挟まれた構造を取る。
a Yanらは、この高い圧電性を、材料を引き伸ばす熱延伸工程(力を黒色矢印で示す)でナノ粒子の周りに形成される細孔に起因するものと考えた。こうした細孔は、次の分極工程で電気分極ドメイン(双極子)を誘起する。双極子数の増加は、音響振動を通して形成される電荷の出力を向上させる。
b センサーはポリマーでできているので、繊維に成形して布地に織り込むことができる。そうした繊維センサーは、健康管理や娯楽用、あるいは通信用としてのウエアラブルデバイスへの応用が期待される(参考文献3のSupplementary Fig. 9より改変)。 | 拡大する

Yanらは、今回のフレキシブル単繊維センサーを布地に織り込んで、音声の受信や発信、音源の方向の識別、さらには心拍のモニタリングができることを実証した。作製した布地は洗濯機で洗うことができ、丈夫で再現性があるので、今回の圧電繊維がウエアラブル家電製品、音波通信、音響エネルギー収穫装置に加え、警備産業、自動車産業、航空宇宙産業、ロボット工業、生物医学産業向けに設計されたデバイスに応用される可能性が示唆される。特殊な用途としては、繊維状のワイヤレスマイク、フィットネストラッキングベスト、補聴器、身体機能をリアルタイムで検知・監視する埋め込み型デバイスがあるかもしれない。そうしたイノベーションによって、人体とデバイスが連動する手段が増え、人工知能分野の新技術に向けて新たな扉が開かれるだろう。

Yanらの音響繊維の応用は有望であるにもかかわらず、そうしたセンサーが商品に使えるようになるまでには、多くの課題が残されている。今回の研究は十分に制御された実験室内で行われたもので、実験室の外では環境条件がセンサー性能に影響を及ぼすのは間違いないだろう。外部条件に対する応答に影響を及ぼす主要な要因として、繊維センサーを布地に織り込んだり編み込んだりする方法、併用される材料の種類やテクスチャー、剛性などがある。現実世界では布地の環境や動きを制御できないので、雑音の大幅な増大は不可避である。このため、デバイスのセンシング能が制限され、受信データが処理できなくなる可能性がある。

また、ウエアラブルデバイスは、小型コンピューターのように機能する。このため、他のデバイス(データ処理装置、コア記憶装置、通信インターフェース、電源など)と一体化しなければならない。こうした拡張は小さくはない課題で、一体型デバイスを小型軽量化できるだけの小さく柔軟な部品が必要になる。高速ワイヤレス通信で他のスマートデバイスやクラウドコンピューティング設備とやりとりできる自己給電型圧電繊維センサーなら、こうした課題を克服できる可能性がある。

将来、ウエアラブル電子デバイスは日常生活に組み込まれるようになるだろう。Yanらのデバイスは、そんな未来に私たちを一歩近づけてくれる。

(翻訳:藤野正美)

Wenhui Songは、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)に所属。

参考文献

  1. Dong, K., Peng, X. & Wang, Z. L. Adv. Mater. 32, 1902549 (2020).
  2. Heo, J. S., Eom, J., Kim, Y.-H. & Park, S. K. Small 14, 1703034 (2018).
  3. Yan, W. et al. Nature 603, 616–623 (2022).
  4. Qiu, C. et al. Nature 577, 350–354 (2020).
  5. Acosta, M. et al. Appl. Phys. Rev. 4, 041305 (2017).
  6. Surmenev, R. A. et al. Nano Energy 62, 475–506 (2019).
  7. Wu, Y., Ma, Y., Zheng, H. & Ramakrishna, S. Mater. Des. 211, 110164 (2021).
  8. Nunes-Pereira, J., Sencadas, V., Correia, V., Rocha, J. G. & Lanceros-Méndez, S. Sensors Actuators A 196, 55–62 (2013).
  9. Egusa, S. et al. Nature Mater. 9, 643–648 (2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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