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タンパク質を本来の場所で観察する

クライオ電子線トモグラフィーなどの最新の顕微鏡法によって、細胞の内部を、本来の密集した状態のまま可視化することが可能になった。

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S. ALBERT ET AL./PNAS (CC BY 4.0)

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220117

原文:Nature (2021-10-28) | doi: 10.1038/d41586-021-02904-w | The secret lives of cells — as never seen before

Diana Kwon

2017年の数週間、ベルン大学(スイス)の生化学者であるWanda Kukulskiは、細胞の内部を撮影した珍しい動画を夢中で見ていた。動画はクライオ電子線トモグラフィー(以下、クライオET)という手法を使って制作されたもので、研究者はこれにより細胞の中にあるタンパク質を高解像度で見ることが可能になった。動画では、細胞内の活動や区画など、あらゆる種類の印象的なものが、これまでにない詳細さで描き出されていた。Kukulskiは、「その美しさと複雑さに衝撃を受け、夜になるとドキュメンタリー番組を見るように、ひたすら動画を見ていました」と振り返る。

クライオETをはじめとする近年のイメージング法により、科学者は生体分子を本来の環境の中で観察することが可能になった。個々のタンパク質を本来の場所から取り出して調べる従来の手法とは異なり、これらの手法では、タンパク質やその他の分子を細胞ランドスケープごと1つの全体像として見ることができる。この手法にはまだ限界があり、「クライオETは分解能が低過ぎて、分子を確実に同定することができない」と指摘する研究者もいるが、その人気も洗練の度合いも高まってきている。クライオETを用いる研究者たちは、その美しい画像に魅了されるだけでなく、細菌が細胞に感染する際の巧妙なやり方や、変異タンパク質がパーキンソン病などの神経変性疾患を引き起こす仕組みなど、この手法で明らかになった秘密に驚かされている(2020年5月号「タンパク質の構造を使って病気を診断」参照)。

カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の構造生物学者Grant Jensenは、「顕微鏡をのぞき込むたびに、未知の細胞領域を探索することができるのです。何かを初めて見られるようになることは、間違いなく大きな喜びです」と言う。

他の研究者たちも、彼と同じ喜びを感じている。カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の生物物理学者Elizabeth Villaは、クライオETを使って初めて細胞の構造を見たときの圧倒的な興奮をこう回想する。「これまで見えなかったものがいきなり見えて、パパラッチになったような気がしました」。

結晶から背景へ

クライオ電子トモグラフィー(クライオET)によって in situ(本来の場所)で観察された、藻類細胞の内部。ゴルジ体やタンパク質を輸送する小胞などの本来の位置や姿が分かる。 | 拡大する

Y. S. Bykkov et al./eLIFE (CC BY 4.0)

何十年もの間、研究者たちはX線結晶構造解析という手法を用いて、タンパク質やウイルスやその他の生物学的物体を可視化してきた。この手法では、分子に静的で秩序立った結晶を作らせ、そこに強力なX線ビームを照射する。これによりDNAのらせん構造や10万種類以上のタンパク質の構造を発見することができたが、分子の結晶化は困難で手間がかかる上、常に結晶化できるわけではないという欠点がある(2013年6月号「結晶化せずに分子構造を決定する『結晶スポンジ法』」、2014年4月号「微小世界の謎を解く–結晶構造解析100年の歩み–」参照)。

科学者たちは、周囲の環境から分離して凍結させた生体分子の構造を明らかにするクライオ電子顕微鏡法(以下、クライオEM)という手法によって、これらの欠点を克服した(2014年3月号「電子顕微鏡でイオンチャネルの構造を決定」、2014年8月号「極低温電子顕微鏡が可能にする、膜タンパク質の構造解析」、2017年12月号「ノーベル化学賞は分子イメージングの先駆者に」参照)。クライオEMでは、試料に電子線を照射する。初期の画像はぼんやりした塊(blob)にしか見えなかったことから「blobology(ブロボロジー)」と揶揄されていたが、試料の調製と画像処理技術の進歩により、その分解能は約1.2Å(1Åは10−10m)と、個々の原子を可視化できるまでに向上した(2020年9月号「原子レベルの分解能を達成したクライオ電子顕微鏡技術」参照)。

科学者たちは、クライオEMの「分解能革命」が起きた2013年ごろから、この手法に殺到し始めた。クライオEMは、既に1万種類以上の生体分子の構造を解明している。中でも注目されているのは、細胞膜に存在するタンパク質である。こうしたタンパク質には、疾患の理解や薬物の開発において重要なものが多いからだ。Jensenは、「この進歩を受け、卓越した科学者たちが、次に大きなインパクトをもたらすことになる豊かで成熟した領域を探るようになりました」と語る。それがクライオETだった(2020年4月号「『フォース』を感知するタンパク質を求めて」参照)。

この分野に最初に参入した研究者たちは、生体分子を詳細に観察できるだけでなく、細胞の中の様子も見ることができる手法を求めていた。クライオEMと同様、クライオETは電子顕微鏡を必要とし、ガラス化(試料の周りの水を急冷することで、氷晶を形成させることなくガラス様状態に凍結させる)という方法で試料を調製する。しかし、従来のクライオEMではサンプルを精製する必要があるのに対して、クライオETではこれらの分子をin situ(本来の場所)で捉えることができる。

クライオEMでは、さまざまな立体構造をとる分子を多数単離して二次元画像を撮影し、その結果を合成することで三次元画像を作成する。これに対してクライオETでは、たくさんの分子が集まった1つの物質の塊をさまざまな角度から何度も撮影するので、周囲の環境を損なわずに画像を作成することができる。

例えるなら、1人の顔写真ではなく群衆の集合写真を撮るようなものだ。クライオETの先駆者の1人であるマックス・プランク生化学研究所(ドイツ・マルティンスリート)の生物物理学者Wolfgang Baumeisterらが、この手法を「molecular sociology(分子社会学)」と呼ぶ理由はそこにある。

実際、タンパク質は社会の中で生きている。「タンパク質は社会的なのです。1つのタンパク質は、常に、約10個の他のタンパク質と複合体を形成しています」とVillaは言う。「私は、クライオETによってこうした相互作用を見てしまったら、単独のタンパク質を研究することなど考えられなくなってしまいました」。

電子顕微鏡を使って試料をさまざまな角度から撮影する電子線トモグラフィーの手法は1960年代からあったが、本格的に普及し始めたのは1990年代に入ってからである。問題の1つは、電子線が生体試料を激しく損傷してしまうため、鮮明な画像を得るのに十分な数のスナップショットを撮影するのが難しいことだった。科学者たちは、最新の試料加工法と計算法を用いて画像を鮮明にしてきた。例えば、クライオ集束イオンビーム(以下、クライオFIB)ミリングという加工法では、試料をラメラと呼ばれる非常に薄い切片にすることができる。とはいえ多くの研究室にとって、クライオET(特にクライオFIBミリングなどと組み合わせたもの)は、必要とされるコストと技術的習熟の点で手が出せないかもしれないとBaumeisterは言う。

BaumeisterのグループによるクライオETの初期の実証では、土壌中に生息する細菌を捕食するタマホコリカビ属Dictyosteliumのアメーバの細胞のスナップショット1を撮影した。Baumeisterらは、アメーバの細胞骨格を構成する複雑なタンパク質ネットワークの、これまで誰も見たことのない特性、例えば、個々の線維がどのように相互作用し、細胞膜上の特定の構造にどのように固着しているかなどを明らかにした。

「生物学的機能や細胞機能を個々の分子と対応させることはめったにできません。機能は、細胞ランドスケープに存在する全ての分子の相互作用によって生じるのです」とBaumeisterは言う。「ここにクライオETによる発見の可能性があります。最近では、何を見ても驚きがあります」。

社交的な細胞

クライオETの初期の研究の多くは、原核生物(細菌などの単細胞生物)を対象としていた。原核生物の細胞は、真核生物の複雑な細胞に比べて小さくて薄いのが普通であるからだ。

例えば、2006年に発表されたJensenらの論文では、細菌の鞭毛(鞭のような付属器官)を動かすモーターの完全な構造が初めて報告された2。彼らはクライオETを用いてシロアリの腸内に生息する細菌Treponema primitiaのモーターの構造を明らかにし、モーターを構成する20個のパーツが細菌の細胞膜の中でどのように配置されているかを詳細に明らかにした。Jensenらは細菌の繊毛の詳細も解明している。繊毛は細菌の表面に見られる突起物で、細菌が感染する細胞に付着したり、細胞内に物質を分泌したりするなど、さまざまな機能を担っている。同チームは2020年には、クライオETが解明した細菌や原核生物細胞に関する多くの知見を紹介するオープンアクセスのデジタルアトラス(go.nature.com/3nugs7v)を発表している。

最近では、原核生物細胞よりも大きくて複雑な真核生物細胞の画像化に取り組む科学者も増えている。これを可能にしたのは、細胞を電子顕微鏡にセットする前に薄くスライスすることができる前述のクライオFIBミリングの登場である。Baumeisterらは、この融合的な手法を駆使し、ヒトの細胞内の核の近傍での分子の配置を可視化した3(「クライオETで見える細胞の中」参照)。その結果、これまで見られなかったナノメートル単位の細さの線維状の構造物が核を支えることで、核を動物細胞内で最も硬い細胞小器官の1つにしていることが明らかになった。

クライオETで見える細胞の中
研究者たちはクライオETを用いてヒト細胞の核の境界(右)を見て細胞内外の構造を特定することができた(左)。 | 拡大する

SOURCE: REF. 3

クライオFIBミリングを用いても、クライオETで捉えることができるのは真核細胞のごく一部にすぎないため、広大でごちゃごちゃした細胞ランドスケープから目的の分子を見つけ出す方法が科学者には必要だ。1つの解決策は、先に光学顕微鏡下でタンパク質を蛍光標識し、目的のタンパク質を選び出してから、クライオETで特定の部分を拡大し、詳細に観察することである。

Villaらは、2つの手法をこのように組み合わせることで、遺伝性パーキンソン病に関連するタンパク質LRRK2の構造を解明した4。彼らは、変異したLRRK2が、細胞骨格の構成要素である微小管に付着し、その周囲に二重らせんを形成していることを明らかにした。彼らの研究はまた、変異したLRRK2が、このタイプの結合を促進する構造を形成している可能性も示唆している。つまり、こうした構造が、微小管に沿って重要な細胞内貨物を運ぶ分子を阻害し、問題が生じている可能性があるというわけである5

Baumeisterのグループやその他のグループは、この手法を用いて、ハンチントン病6や、運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)7などの神経変性疾患に関連するタンパク質が、小胞体(タンパク質の合成を助ける巨大な細胞内機構)などの細胞の構成要素とどのように相互作用しているかを調べている。研究者たちは、これらの疾患に関与する神経毒性のあるタンパク質の塊が、細胞内では互いに大きく異なる挙動を示すことを見いだした。例えばハンチントン病では、ハンチンチン(huntingtin)というタンパク質の変異体が凝集したものが小胞体の組織を乱しているようであるのに対し、ALSでは、異常なタンパク質の凝集体がタンパク質分解装置を活性化することで細胞の生化学的機能を低下させている。

科学者たちは将来的には、こうした手法を用いて、薬物が細胞内の分子にどのように作用するかを可視化することにより、治療薬の作用機序をより深く理解したいと考えている。欧州分子生物学研究所(EMBL;ドイツ・ハイデルベルク)のJulia Mahamidらは、初期の実証において、細菌細胞内で抗生物質がリボソーム(タンパク質の製造工場に当たる細胞小器官)に結合する様子を見ることができた8。こんな驚異的なことが可能になったのは、クライオETの分解能を3.5Åにまで高めることができたからだ。

Kukulskiはこの研究には参加していないが、「おそらくこれが、クライオETで可能なことの最先端でしょう」と言う。しかし彼女は、リボソームは細胞内に遍在していて、既に解明が進んでいるため、これを認識して調べるのは容易であるとも指摘する。あまりよく知られていない細胞内構造や希少な細胞内構造を画像化する作業は、今でも非常に困難であるという。

強力な組み合わせ

クライオETは急速に成長している分野だが、この手法にはまだ多くの欠点がある。例えば分解能はまだ足りない。ここ数年でクライオETの分解能は劇的に向上しているものの、クライオEMのような原子レベルの分解能は達成していない。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)の生物物理学者Hong Zhouは、「今日のクライオETの分解能は、1990年代初頭のクライオEMと同程度です。クライオEMが原子レベルの分解能を達成するよりもずっと前のレベルです」と言う。

Zhouによると、現在のクライオETの性能では、細胞内の分子を正確に識別することは難しいという。そのため、リボソームのようにその特性が既に十分明らかになっている構造を見ている場合を除き、この手法を使って見たものに関する仮説は間違っている可能性がある。「確率的には不利です。簡単に間違えてしまいますから」。

分解能の問題を回避するため、Zhouは従来のクライオEMの限界に挑む方を選んだ。彼のチームは最近、クライオEMを他のさまざまな手法と組み合わせたクライオID(cryoID)9という手法について報告した。組み合わせる手法の1つは、タンパク質が元の細胞環境の中に部分的にとどまることができるように細胞を破壊する手法である。こうすれば、研究者はタンパク質を本来の状態に近い形で観察することができる。Zhouは、彼自身は今はクライオEMに集中しているが、将来的にはクライオETが主流になると考えている。「私の手法は、その目標に向けた中間的なステップだと考えています」。

クライオETのもう1つの欠点は、サンプリング範囲の狭さである。「実は、トモグラフィーで哺乳類の細胞を見るとき、細胞全体の0.1%も見えていないのです」とVillaは言う。つまり、核のような大きな細胞小器官はごく一部しか見ることができないのだ。このギャップを埋めるため、ハワード・ヒューズ医学研究所ジャネリア・リサーチ・キャンパス(米国バージニア州アッシュバーン)の生物物理学者Harald Hessなどの科学者は、超解像蛍光顕微鏡法や電子顕微鏡法など、クライオET以外の手法を用いて細胞全体を可視化している。Hessのグループは、これらの手法を用いることで、細胞を構成するさまざまな要素の相互作用について、新たな知見を得ることに成功している10。彼らが2021年10月に発表した論文では、人工知能の一種である機械学習の助けを借りて、多くの試料中でこれらの構成要素を特定することで、35種類もの細胞小器官の組織をマッピングできることを実証した11

クライオETを、細胞全体の画像を撮影できるX線トモグラフィーと組み合わせている研究者もいる。これにより、ミトコンドリアや核などの大きな細胞構成要素の構造を調べたり、興味のある特定の領域を拡大して観察したりすることが可能になる。

しかし、これらの手法を組み合わせるには資金も技能も必要だ。その上、どちらの手法も試料を損傷する放射線を照射している。トモグラフィーに適したX線を発生させるALBAシンクロトロン施設(スペイン・バルセロナ)のビームライン科学者Eva Pereiroは、1つの試料を2つの手法で調べるのは難しいと言う。

とはいえ、いくつかの研究室では既にこれを成功させている。シンクロトロン施設ダイアモンド・ライト・ソース(Diamond Light Source;英国ディドコット)の主任ビームライン科学者Maria Harkiolakiらの研究チームは、クライオETとX線トモグラフィーを用いて明らかにした重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染機構のモデルを2021年7月に発表した12。彼らは、細胞のレベルと個々の分子のレベルの両方で一連の事象を捉え、このウイルスが霊長類の細胞内で複製される仕組みに関する仮説を提案した。

Baumeisterは、クライオEMと同様に、クライオETも将来的には生体分子を原子レベルで詳細に観察できるようにしてくれると考えている。それが可能になるまでは、科学者はクライオETやその他の類似した手法によって細胞についてどんなことが明らかになるかを探究し続けることになる。これらのツールが明らかにする構造には、過去に誰も見たことがないものもある。そのため、研究者たちはしばしば新たな問題を突き付けられるだろう。「私にとって、トモグラフィーの面白さは、常に答えよりも多くの疑問が出てくる点にあります」とVillaは言う。

(翻訳:三枝小夜子)

Diana Kwonは、ベルリンを拠点とするフリーランスの科学ジャーナリスト。

参考文献

  1. Medalia, O. et al. Science 298, 1209–1213 (2002).
  2. Murphy, G. E., Leadbetter, J. R. & Jensen, G. J. Nature 442, 1062–1064 (2006).
  3. Mahamid, J. et al. Science 351, 969–972 (2016).
  4. Watanabe, R. et al. Cell 182, 1508–1518 (2020).
  5. Deniston, C. K. et al. Nature 588, 344–349 (2020).
  6. Bäuerlein, F. J. B. et al. Cell 171, 179–187 (2017).
  7. Guo, Q. et al. Cell 172, 696–705 (2018).
  8. Tegunov, D., Xue, L., Dienemann, C., Cramer, P. & Mahamid, J. Nature Methods 18, 186–193 (2021).
  9. Ho, C.-M. et al. Nature Methods 17, 79–85 (2020).
  10. Hoffman, D. P. et al. Science 367, eaaz5357 (2020).
  11. Heinrich, L. et al. Nature 599, 141–146 (2021).
  12. Mendonça, L. et al. Nature Commun. 12, 4629 (2021).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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