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キノコから作る布地

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210734a

美術館に残っていたある工芸品はキノコの菌糸体でできていた。

エブリコの子実体。 | 拡大する

DEA/P. MARTINI/DEAGOSTINI/GETTY

バイオファブリケーション企業は、プラスチックや革の代わりになる丈夫で持続可能な製品を、菌類を使って作る試みにますます力を入れている。だが最近、アメリカ先住民が、少なくとも100年前に既に“菌織物”を作っていたことが判明した。Mycologia に発表された研究で、1903年にアラスカのトリンギット族の女性が作った2つのウォールポケット(ポケットつき壁掛け)が菌類由来であることが確認された。

かつて欧州で菌織物が使われていたとする報告例がいくつかあるが、「この素材が北米で使われていたことを示す記録は私の知る限りこれが初めてです」とヴィクトリア大学(カナダ)の民族植物学者Nancy Turner(この研究には加わっていない)は言う。

論文の共著者であるDeborah Tear Haynesは、ダートマス大学(米国)のフッド美術館で収蔵資料管理マネージャーを務めていた際にこの工芸品を知った。これを寄贈した元の所有者はウォールポケットの1つに「ペアの菌類バッグ。近所の先住民からの結婚祝いの贈り物」とラベルを付けていた。興味をそそられたHaynesは何年もかけて専門家に鑑定を依頼したが、菌織物のことを知る者は誰一人おらず、彼女の問い合わせはほとんど関心を呼ばなかった。だが「何でできているのかを解明しないまま放ってはおけませんでした」と話す。

Haynesがダートマス大学の走査型電子顕微鏡施設を利用して詳しく調べた結果、ついに進展があった。顕微鏡画像によって菌糸体が明らかになったのだ。菌糸体はより合わせた糸のような組織構造で、これが土壌や木質に侵入し、強くしなやかで耐久性のある厚いマットを形成することがある。「手で引き裂くのは不可能で、まさしく革のようです」と同じく論文の共著者であるミネソタ大学(米国)の森林病理学者Robert Blanchetteは言う。

エブリコというキノコ

Blanchetteは菌糸体の細部を現生種に関する記述と比較し、これらのバッグがエブリコというキノコの一種からできていることを突き止めた。この木材腐朽菌は米国西部の老齢林と共に消えつつある。「エブリコは先住民にとって重要な菌類でした。太平洋岸北西部の至る所で薬や宗教儀式に使われていました」とBlanchetteは言う。

ある医療人類学者によると、米国ワシントン州のスポケーン族はおむつかぶれを防ぐため、ゆりかごの底板にエブリコのマットを敷いていた。20世紀に木こりたちは、エブリコを傷口に当てる包帯として使っていた記述がある他、古代ギリシャ人はエブリコを結核の治療に用いていた。近年の研究では、エブリコの抽出成分に抗菌・抗ウイルス作用があることが示され、動物では一部のがんを治す効果があるらしいことが示唆されている。

(翻訳協力:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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