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口まねするクジラ

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210433a

オーストラリアのヒレナガゴンドウはシャチの声をまねているようだ。

ヒレナガゴンドウ(Globicephala melas)。 | 拡大する

WESTEND61/GETTY

南洋のヒレナガゴンドウはおしゃべりな海生哺乳類だ。そしておしゃべりなだけでなく、その発声を使って強敵をだまそうとしている可能性がある。

クジラやイルカなどクジラ目の動物は、食物や交配相手の発見や進路の決定、仲間との交流のために音でコミュニケーションしている。その声(いわゆる「クジラの歌」)は種によって異なり、コミュニティーによっても違う。ソナーなどの人工音をまねることもできる。クジラ目の声を録音して別の種の声と一致するものを突き止めた例はこれまでなかったが、最近の研究で、音声記録に重複部分が見つかった。

ライバルに似た声

ある研究チームが、オーストラリア沖のヒレナガゴンドウの発声2028件を調べた。この海域のヒレナガゴンドウの声を総合的に記述した初の研究だ。同チームは19件の発声がシャチのものに似ていることに驚いた。シャチはヒレナガゴンドウの敵だ。「人間の耳には、同じ海域のシャチの声と全く同じに聞こえる声を見つけました」と、Scientific Reports に発表された論文を共著したカーティン大学海洋科学技術センター(オーストラリア)所長のChristine Erbeは言う。

ゴンドウクジラとシャチはマイルカ科の中で最大の2種であり、同じ環境で見られることが多く、サイズも同程度で、どちらも社会的つながりの強い群れを作って生活していると、CEREMAラボ(フランス)の生物音響学研究者Charlotte Curé(この研究には加わっていない)は言う。シャチはヒレナガゴンドウと食物を奪い合う関係であり、ヒレナガゴンドウを捕食している可能性もある。

実際、シャチの胃の内容物を調べた研究から、シャチがゴンドウクジラを食べた例が見つかっている。だがゴンドウクジラは群れでシャチを追い払うこともある。クジラ目の頂点捕食者からこのように身を守るのはゴンドウクジラだけだ。

口まねによる護身術?

口まねはシャチから身を守る付加的な方法になっている可能性がある。「似た声を出せば、獲物として認識されないだろうという仮説です」とErbeは言う。シャチが食べ残したおこぼれをゴンドウクジラが食べる場合、シャチのような声を出せば気付かれないで済むかもしれない。「これは全て、光のほとんど届かない水中の話であり、動物たちは獲物や捕食者の検知や進路決定を音に頼っています」とErbeは言う。

一方、ヒレナガゴンドウはシャチの声の意味を判別できることが分かっている。ゴンドウクジラによるシャチの口まねは、シャチをだましているのではなく、群れの仲間向けにシャチの新たな声を実演している可能性があると、Curéは考えている。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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