とっておき年間画像特集2020
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210232
原文:Nature (2020-12-14) | doi: 10.1038/d41586-020-03436-5 | The best science images of 2020
2020年は異例な年でした。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、科学は闘いの最前線に押し出され、人々の生活は支配されました。しかしそんな年にも、コロナウイルスとは関係のない鮮やかな写真が数多く生み出されました。極薄の太陽電池から遺伝子編集されたイカまで、Nature のニュース&アートチームの目に留まった印象的な科学写真を紹介します。
東アフリカと中東に出現したサバクトビバッタの大群は、食料生産と人々の生活を脅かした。バッタは、大雨が降ると急速に繁殖して、湿った土壌に卵を産み付ける。画像はケニアのサンブル郡で撮影されたもの。2020年にケニアを襲ったバッタの群れの規模は、過去70年で最も大きいものであった。
Fredrik Lerneryd/Getty
卵の中で成長するクラウンアネモネフィッシュ(Amphiprion percula)の胚。この驚くほど詳細な写真は、胚発生の1日目、3日目、5日目、9日目に撮影された。最初の画像は受精からわずか数時間後のものである。写真家のDaniel Knopはこの画像で、Nikonの写真コンテスト「Small World」の第2位を獲得した。
Daniel Knop/Nikon Small World
シリカ基質上で増殖させたがん細胞を、イオンビームで切断した様子。イオンビームはがん細胞の一部を吹き飛ばして断面を露出させ、その下のシリカ基質の表面も三角形に切り取った。イオンビーム切削と呼ばれるこの技術によって、がん細胞の内部をこれまでにない詳細さで見ることができるようになる。
Chris Bakal and Nick Moser
地球上から史上最高の解像度で撮影された太陽表面の画像。世界で最も強力な太陽望遠鏡であるダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡(ハワイ)を使って撮影され、2020年1月に公開されたこの画像には、太陽の内部から上昇してくるプラズマの「セル」が写っている。黒っぽい色の境界線は、プラズマが冷えて沈んでいく場所である。
NSO/NSF/AURA
アブドラ王立科学技術大学(サウジアラビア・トゥワル)の材料科学者たちがインクジェットプリンターを使って製作した太陽電池は、シャボン玉の表面に載せることができるほど薄くて軽い。この太陽電池は、電極を形成するPEDOT:PSSという導電性ポリマーを含む「インク」の層からできている。
Anastasia Serin/KAUST
使い捨てマスクを手にするマレーシアのサル。COVID-19パンデミックの中で、マスクは多くの人の日常生活の一部になった。こうした中、環境保護問題の専門家は、使い捨ての不織布マスクがプラスチック汚染に大きく加担することを懸念している。
Mohd Rasfan/AFP/Getty
史上最大の北極遠征調査ミッションMOSAiCで、気温、湿度、水蒸気量を観測する科学者たち。このミッションは、北極の気候に関する先例のないデータをもたらした。
Alfred-Wegener Institut/Lianna Nixon (CC-BY 4.0)
2020年の最大の話題となった重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のイメージ画像。壊滅的なパンデミックを引き起こしたSARS-CoV-2は、ヒトに感染することが分かっているコロナウイルスとして7番目のものだ。
CDC
ある星を撮影した際に、移動する人工衛星の光跡が写り込んだ。世界中の人々にインターネットアクセスを提供するために、複数の企業が数千基の人工衛星を軌道上に打ち上げているが、天文学者たちは、このように人工衛星から反射した太陽光が観測の妨げになることを懸念している。
Rafael Schmall
このボート状の粒子の全長は30µmで、化学反応を利用して自力で航行することができる。研究者たちは3Dプリンターを使ってこの船の粒子を印刷し、金属でコーティングした。この粒子を過酸化水素溶液中に入れると、金属が化学反応を触媒してガスが発生し、このガスによって粒子が進んでいく。
R. P. Doherty et al./Soft Matter
このコブ状のものに覆われた表面は、さまざまな細胞に成長できる「多能性」幹細胞から作り出されたヒトの皮膚で、毛包が備わっている。実験室で育てられたこうした皮膚は、疾患の研究に役立ち、皮膚移植などの再建手術をより良いものにできると期待されている。
Jiyoon Lee/Karl R. Koehler
7月、遺伝子編集技術を用いて透明にされたイカが報告された。研究者たちはCRISPR–Cas9を用いて、アメリカケンサキイカ(Doryteuthis pealeii)の胚からTDOという遺伝子を欠損させた。TDOタンパク質は、カモフラージュのために体色を変える細胞やイカの目に色素を付加する。
Karen Crawford
(翻訳:三枝小夜子)