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培養細胞塊でヒト胚発生の重要段階を模擬

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200915

原文:Nature (2020-06-11) | doi: 10.1038/d41586-020-01757-z | Lab-grown cells mimic crucial moment in embryo development

David Cyranoski

実験室で培養された人工的構造体から、心臓と神経系の原始的なコンポーネントが発生した。

上:初期胚の過程を模擬する、ガストロイドと呼ばれる構造体。
下:凝集から72 時間後に「前後(頭尾)」パターンを示すヒトのガストロイド。緑色(CDX 2)は後部を示し、胚の尾部と似ている。赤紫色(GATA 6)は前部を示し、発生中の心臓の細胞と似ている。 | 拡大する

NAOMI MORIS

ヒト発生の重要だが謎に包まれたステージを模擬する初めての胚様構造体が作製され、Nature 6月18日号410ページで発表された(N. Moris et al. Nature http://doi.org/dzhm; 2020)。体が形作られる過程を示す胚様の立体的集合体はガストロイド(gastruloid)と呼ばれる。このガストロイドは幹細胞から作製され、心臓と神経系の原始的なコンポーネントを発生させたが、生きた胎児になるために必要な脳などの他の種類の細胞を形成するコンポーネントを欠いている。

研究者たちは、実験室で胚の発生を研究するためにより高性能な人工構造体を作り出そうとしている。今回報告されたガストロイドを作るための最新の方法は、妊娠喪失および先天的心疾患や脊椎披裂などの早期発達障害の原因の解明を可能にするかもしれない。

このモデルは、そのような異常における遺伝と環境要因の役割を理解する助けになるかもしれないと、ミシガン大学アナーバー校(米国)の生体工学者Fu Jianpingは述べる。「研究は今、始まったばかりです」。

ガストロイドなどの人工構造体により、ヒト胚研究に関連する生命倫理の問題のいくつかを回避できる。しかし、構造体がより高度になって生命体に近づけば、やはり倫理的境界を押し広げることになるかもしれないと科学者たちは言う。

体の設計図

ヒト胚は3週目に重要な飛躍を遂げる。それまではほぼ均質の細胞からなる球体だったものが分化し始め、細胞はやがて自分が構成要素となる体の部分の特性を備えるようになるのだ。原腸形成として知られているこの過程の際に、胚は伸長していき、しばしば頭尾軸と呼ばれる頭部と「尾部」があるボディープランが出現する。

しかし、科学者たちは、この過程が進行していく様子を観察したことがない。その理由の1つは、多くの国々で、研究のために胚を受胎から14日を超えて実験室で成長させてはならないという規則があるからだ(2018年10月号「『ヒト胚の育成』入門編」参照)。

2019年、いくつかの研究グループが、細胞が分化し始めるときをモデル化する胚性幹細胞構造体を培養によって作製した。ケンブリッジ大学(英国)の発生生物学者Naomi MorisとAlfonso Martinez Arias、そして彼らのオランダの共同研究者らが開発した最新のモデルは、受胎から約18~21日後に体の発生の設計図が出来上がったときに何が起こるかを初めて示した。

「この重要な研究結果は、ヒトのボディープラン形成の重要なメカニズムを理解する助けになるでしょう」と、同じく胚様構造体の研究を行っている霊長類トランスレーショナル医学研究所(中国雲南省)のLi Tianqingは述べる。

Morisは、最もスリリングな結果は頭尾軸に対称的にまたがる細胞のポケットの形成だったと言う。遺伝解析により、それらの細胞は最終的に体幹、脊柱、心臓などの筋肉を形成することになる細胞であることが分かった。

胚のモデルは、細胞のパターンがどのように生じ、どこでパターンの障害が起こり得るかを研究する助けになるとMorisは言う。背骨の湾曲を引き起こす脊柱側弯症など多くの病気は、この過程で起こるエラーが原因となる。「この新しいシステムによって、多くの疑問が解明され始めるでしょう」と、彼女は言う。

(翻訳:古川奈々子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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