Editorial

ロックダウン解除の教訓を共有すべし

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200845

原文:Nature (2020-05-07) | doi: 10.1038/d41586-020-01311-x | Coronavirus: share lessons on lifting lockdowns

世界の国々が移動の制限を解除し始めているが、どのように行うべきかについての統一見解がほとんど形成されていない。最優良事例の共有が、進むべき道だ。

規制を緩和する国が出てきている中、世界保健機関は、このウイルスに対する厳しい封じ込めの手を緩めてはならないと訴えている。 | 拡大する

Anthony Devlin/Getty Images

ロックダウン(都市封鎖)は、いつ解除でき、どのように解除すべきか。新型コロナウイルスに対して全面的あるいは部分的な移動制限を実施した180余りの国と地域では、これらの問いに対する答えが緊急に求められている。ところが、いざ各国で学校、企業、公共施設を暫定的に再開し始めてみると、移動制限の解除をどのように行うべきかについての統一見解が、ほとんどないことも分かってきた。世界各国が協調して行動することを目指した活動が、頓挫しかけているからだ。

当然のことながら、世界各国は、かつての活気を取り戻す必要があり、それを急いで実現しなければならない。国際連合の機関である国際労働機関(ILO)によれば、自宅待機命令によって少なくとも16億人の生命と生活が危険にさらされている。その大半の人々は、所得補償も医療保障もなく、在宅勤務で対応できない仕事に就いていた。仕事がなくなると、食べ物がなくなり、家賃を払う金もなくなるのだ。各国の政府は、一時的な金融支援をさまざまな形で行ってきたが、そのために多額の財政赤字を背負い込んでいる。

この金融支援がなくなれば、貧困が原因の健康不良を抱える人が増加する恐れがある、という研究者の警告がある。また、2020年末までに2億6500万人が急性的な飢餓に陥ると世界食糧計画は警告している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以前の食糧危機に直面していた人数の2倍である(go.nature.com/3c8aebj参照)。

こうした事情の全てが、社会経済活動再開への圧力になっている。しかし、新型コロナウイルスの世界的流行は終息に向かっておらず、新規感染者数と死亡者数は増え続けている。もし移動制限の解除が早過ぎれば、新型コロナウイルスの影響は長引くことになる。

世界保健機関(WHO)は、移動制限の一部緩和を検討している国々に対する暫定ガイダンスを2020年4月16日に発表したが、これは、新型コロナウイルスの再流行リスクを最小限に抑えることを目的とした勧告である(go.nature.com/2a4jdmt参照)。移動制限の緩和に関しては、万能な解決策はあり得ない。それでもWHOは、査読済みの文献の系統的検討と感染症に対処してきた数十年の経験に基づいて、どのようなシナリオにおいても、COVID-19の伝播は制御されなければならず、それができなければ、ワクチンのない現状では、新型コロナウイルスの再流行リスクがあると勧告している。多くの国々で、COVID-19の伝播が制御されていないため、疾患の伝播を減らして、COVID-19の散発的発生か、特定された地域内でのクラスター感染にとどめなければならない。そのためには、公衆衛生システムによって感染症例の検出、検査、隔離、治療を行うと同時に、感染者と接触した人々を追跡する必要があり、それには、大規模な接触者追跡調査チームが必要となる。

さらに、このWHOの暫定ガイダンスでは、各国が、感染ホットスポット候補地(介護施設や大規模な集会など)でのCOVID-19の伝播を最小限に抑える必要があり、人々が集まる場所(例えば、学校や職場)では、物理的な距離を確保するための設備を提供すべきだとしている。WHOもILOと同様に、各国政府が、最も弱い立場にある人々を保護するために、金融支援やその他の支援を継続しなければならないことを明確にしている。

英国オックスフォード大学ブラバトニック行政大学院の研究者によれば、同大学が招集した150人のメンバーからなるチームが測定した結果、5月1日までにWHOの暫定ガイダインスにおける6つの基準のうち4つを満たした国はなかった。これに近い成績を上げたのは、20の国と地域(トリニダード・トバゴ、クロアチア、香港、韓国など)だけだった(go.nature.com/2zbs1ef参照)。

その主たる理由は、大半の国々(150カ国以上)が第一の要件(COVID-19を散発的症例や特定可能なクラスターに限定すること)を充足できていないことにある。また、少なくとも50カ国で、感染者の検査、接触者追跡調査と隔離に関する適切な政策がいまだに実施されていない。さらに、2月に旅行制限が撤廃された中国では、その後のCOVID-19封じ込めにはこうした措置と物理的距離の確保が不可欠だったことを示す研究論文が、5月4日にNature に発表された(S. Lai et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-020-2293-x; 2020)。

欧州連合加盟国と世界の慈善基金を中心とする国際社会は、5月4日にCOVID-19関連の研究開発活動のために80億ドル(約8800億円)を調達し、ワクチンと医薬品の開発を加速させるためにWHOに協力することを約束した。このような協力は不可欠であり、歓迎されるべきである。これにより、究極的に全ての国々の地域社会がCOVID-19から確実に守られるからである。しかし、WHOのガイドラインに注意を払い、ロックダウンの緩和に関する最優良事例を共有することも不可欠だ。

ロックダウンが緩和されるにつれ、各国は難しい決断を迫られている。そうしている間にも各国の研究者がデータの収集と処理を続けている。これらのデータは公開され、共有されるべきである。各国の事情は必然的に異なるだろうが、全世界は、そのようなグローバルな活動から生まれる相互学習の恩恵を受けることになるだろう。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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